去る6月12日付で「研究不正再発防止のための改革委員会」(岸輝雄委員長)名義による「研究不正再発防止のための提言書」が理化学研究所・野依良治理事長宛に提出されました。

 この「提言書」は、日本の基礎科学研究ガバナンス(の不在)の歴史を考えるうえで、非常に重要な、画期的な内容を多く含んでいると思います。

 私たちは7月7日に東京大学本郷キャンパス(17:30- 法文2号館文学部1番大教室)において哲学熟議「研究倫理と生命倫理 ―――STAP細胞問題に端を発して」を開催いたします(予約受付は電子メール gakugeifu@yahoo.co.jp 宛にて受け付けています。リンクをご参照下さい)が、ここで大切に議論したい大切な問題の基礎となるものが、今回の「提言書」の中にいくつも盛り込まれていると思いました。

 それらについて、この場で比較的丁寧に検討してみたいと思います。

 最初のテーマは「研究倫理と生命倫理」という表題の根幹に迫る問題、両刃の剣となりかねない「生命倫理」について、考えてみたいと思います。

「研究の必要性」を保証する筈の生命倫理

 さて、今回の提言書の中でも、たぶんほとんどのマスコミがスルーするであろうところから、私は話を始めます。

 リンクをご覧の方には、6ページを見てみていただけると(1)採用経緯の#5(編集部注:原文では丸数字5)として、

#5 2013年1月、CDB(理化学研究所発生・細胞科学総合研究センター)の竹市センター長は、iPSの技術が遺伝子導入によるゲノムの改変を伴うことから癌化などのリスクを排除できていないことを挙げ、ヒトの体細胞を用いて、卵子の提供やゲノムの改変を伴わない新規の手法の開発が急務である、として(野依)理事長に対し、小保方氏を細胞リプログラミング研究ユニットの研究ユニットリーダーとして採用することを推薦した。理研理事会は、その推薦をもとに小保方氏を研究ユニットリーダー(RUL)に採用することを決定した。

 とあります。

 実はこの短い指摘の中に、研究倫理をおかしな方向に歪めてしまう生命倫理にまつわる非常に重要なポイントがいくつも詰まっています。ここではそれを逐一腑分けして、検討してみましょう。