ウクライナ紛争を巡るエネルギー問題

国民の熱狂に押されてクリミアを編入したプーチン大統領に降りかかる試練

2014.04.03(木) 杉浦 敏広
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 アゼルバイジャン領海シャハ・デニーズ海洋鉱区においては、第1段階の天然ガスが生産されています(年間80億~90億m3)。

 第1段階の天然ガスはSCPにてグルジア経由トルコに輸出されており、第2段階の天然ガスは2018年末頃に生産開始予定です(ピーク時生産量年間160億m3)。160億m3の内訳は、100億m3がトルコ経由南欧向け、残り60億m3は対トルコ輸出(2012年契約調印済み)となります。

 今回の露・ウクライナ紛争を受け、欧州にとって、この「南エネルギー(ガス)回廊」構築の重要性が増してきたと言えましょう。

ウクライナ紛争/危機の本質は?

 最後に、本論を総括したいと思います。

 今回のロシア軍によるクリミア半島進駐は、2008年8月のグルジア紛争とは本質的に異なります。

 2008年8月のグルジア紛争の時は、グルジア軍がグルジア領南オセチア自治州の州都ツヒンバリに総攻撃を開始。ロシア軍はそこに住むロシア系住民を守るべく、出動しました。

 今回もロシア系住民保護を大義名分としてのロシア軍展開ですが、グルジア紛争の事例とは異なります。クリミア半島でロシア系住民は攻撃を受けていませんので、ロシア軍進駐の大義名分は立ちません。

 今回はロシア軍がクリミアに進駐。当初、クリミア半島の空港を封鎖したのは親露派民兵と言われてきましたが、あの装備はロシア軍部隊の装備ですから、民兵ではなく、クリミア半島のロシア軍駐屯基地からの出動以外、あり得ない状況でした。

 2月23日前後、ヤヌコビッチ大統領の所在が一時不明となりましたが、その時は既にクリミア半島の露海軍歩兵の駐屯地に匿われ、黒海艦隊の上陸用舟艇で沖合に待つ軍艦に移送され、黒海を北上して露に亡命しました。

 3月7日付ニューヨーク・タイムズ紙報道(電子版)によれば、今回のクリミア進駐を決定したのは、ソチ五輪閉会後、プーチン大統領/イワノフ大統領府長官/パートゥルシェフ安全保障会議書記/ボルトニコフ連邦保安局長官4人のインナーサークル(全員KGB仲間)の由です。

 もしこの内容が真実としますと、今回のプーチン大統領の対応は緊急措置ということになり、ロシアは以前からクリミア侵攻作戦を立案していたとの一部西側見解を否定することになります。

 プーチン大統領はクリミア編入を望んでいなかったはずです。

 しかし、大多数のクリミア住民が独立・編入を望み、ロシア国民が熱狂的にそれを支持している時流に鑑み、プーチン大統領は3月17日、クリミア自治共和国を国家承認する大統領令に署名。その勢い(熱狂)の延長線上で翌18日、クレムリンにて上院・下院議員に対しクリミア編入宣言を発表しました。

 換言すれば、プーチン大統領には他の選択肢がなかったと言えましょう。低迷していた支持率もクリミア編入宣言後、70%以上に上昇。年内には、すべての実務的編入手続きも完了する予定です。

 上記経緯より、現在クリミアで起こっていることはプーチン大統領の思惑を超えている、ということになると筆者は考えます。まさに世論の熱狂的雰囲気に流されて、瞬時のうちにここまで来てしまった感じです。

 国家の独立・併合・編入問題は、プーチン大統領にとって「両刃の剣」です。ロシア連邦国内のチェチェン共和国やタタルスタン共和国が独立を標榜すれば、あるいは、クリミア自治共和国内のクリミア・タタール人が独立を希望すれば、プーチン大統領は反対する理論的根拠がなくなってしまいます。

 今後のさらなる対露経済制裁の内容いかんですが、欧米の対露経済制裁がボディーブローのように効き始め、そうでなくとも低迷しているロシア経済がさらなる危機に陥る可能性もあります。

 事態は速度のみならず、プーチン大統領の想定外のベクトルで動いているとも言えましょう。今回のウクライナ・クリミア紛争の危機の本質は、まさにこの点にあると筆者は考えます。

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Toshihiro Sugiura (公財)環日本海経済研究所共同研究員

1973年3月 大阪外国語大学ドイツ語学科卒

1973年4月 伊藤忠商事入社。 輸出鉄鋼部輸出鋼管課配属。ソ連邦向け大径鋼管輸出業務担当。 海外ロシア語研修受講後、モスクワ・サハリン・バクー駐在。 ソデコ(サハリン石油ガス開発)出向、サハリン事務所計7年間勤務。伊藤忠商事/アゼルバイジャン共和国バクー事務所6年8カ月勤務。

2011年4月 バクーより帰任。

2011年5月 (財)日本エネルギー経済研究所出向、研究主幹。2015年3月伊藤忠商事退職。現在、(公財)環日本海経済研究所共同研究員
 

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