ロシアとウクライナ情勢がますます混沌としてきました。直近のウクライナ情勢はウラジーミル・プーチン大統領自身の想定をも超えており、それゆえにこそ、今後不測の事態も起こりかねないと筆者は考えます。

 2014年3月末現在、ロシアはクリミア自治共和国の対露編入法的手続きを既に終了、今年末までに各種実務手続き(年金・福祉医療・教育等々)も完了予定と発表しました。

 一方、オランダのハーグにて3月24日に開催された核安全保障サミットではG7も開催され、対露経済制裁が協議されましたが、対露経済制裁において欧米は必ずしも一枚岩ではないようです。

今回のウクライナ問題を理解するカギは?

ロシアのクリミア編入は「ヒトラーと同じ手法」、独財務相

ウクライナの首都キエフでロシアのプーチン大統領をヒトラーに見立てて抗議する人〔AFPBB News

 まず、現在進行中のウクライナ情勢を理解するうえで、筆者が重要と考える「3つのカギ」をご披露したいと思います。

 第1のカギは、「エネルギー問題」です。各種報道ではまたぞろ、ロシアのガスプロムはウクライナに対し、天然ガスを政治の道具として使うであろうとの論評が横行しています。しかし、ロシアは天然ガスを政治の道具として供給停止したことはありませんし、今後もないでしょう。

 もし供給を削減する・停止するとすれば、それはすぐれて経済的問題です。本論では、今回のウクライナ問題がロシア、および近隣諸国の天然ガス政策にどのような影響を及ぼすのか、分析してみたいと思います。

 第2のカギは、「ヤヌコビッチ政権=ロシア=悪」と「野党勢力=民主勢力=善」が対立している構図ではない、ということです。

 ウクライナ最高会議に大統領解任権はなく、実質クーデターにより政権を奪取した2月27日の新政権は非合法政権と言えましょう。今回のクーデターの主役は「右派グループ」が演じましたが、この「右派グループ」こそ、ビクトル・ヤヌコビッチ政権側と野党連合間の各種合意を反故にして、今回の危機を演出・増幅した張本人です。

 しかしクーデター成功後は御用済みとなり、新政権により排除されつつあります。グルジアの薔薇革命、ウクライナのオレンジ革命、キルギスのチューリップ革命を演出したシナリオライターが今回も背後にいると仮定すると、ジグソーパズルの嵌め絵の断片が納まるべきところに納まるのかもしれません。

 第3のカギは、「事態はプーチン大統領の想定外の速さで進行している」ということです。プーチン大統領と独アンゲラ・メルケル首相は2月23日の電話会談で、ウクライナの領土保全を支持することで合意しています。

 すなわち、この時点では、プーチン大統領はクリミア自治共和国の編入は想定していなかったことが分かります。2008年8月のグルジア紛争の際、プーチン大統領はグルジア領土のアブハジア自治共和国と南オセチア自治州を国家承認しましたが、併合・編入はしておりません。