昨年春から夏にかけて、基軸通貨としてのドルはいずれ「退位」するのではないかといった見方が、為替を中心とする市場に広がっていた。そうした思惑を刺激するかのような発言が中国やロシアなど新興国の政策当局者から断続的に発せられて、ドルや米国債が売られる場面があった。しかしその後、特に今春からは、ギリシャ財政危機が拡大するとともに、欧州通貨統合の制度的欠陥が露呈したことから、ドルの最大のライバルであるユーロの信認が大きく低下。結果としてドルへの信頼感が相対的に高まることになり、市場でドル「退位」論は、いったん消滅した形になっている。

 各国の外貨準備運用に関連した6月に入ってからの報道を集めてみると、以下のようなものがある。

◆アラブ首長国連邦(UAE)の中央銀行高官は6月2日、同国が保有する330億ドル相当の外貨準備のほぼ100%がドル建てであり、バランスシート上にユーロは存在しない、とコメントした。

◆韓国銀行は6月3日、同国の5月末時点の外貨準備高が2702.2億ドルで、前月末から86.5億ドル減少したことを明らかにした。その主因はユーロや英ポンドの下落によってドル以外の通貨の資産価値が低下したことだという。2009年末時点で、韓国の外貨準備の63%がドル建てだった。

◆エジプト中央銀行は過去6カ月間に外貨準備に占めるユーロの比率を低下させた、と地元紙が6月6日に報じた。

◆イラン中央銀行のバフマニ総裁は同行が外貨準備から450億ユーロを売却してドルや金に切り替えるとした国営テレビなどの報道を否定した、と6月6日のイラン各紙が伝えた。

◆ロシア連邦中央銀行のウリュカエフ第1副総裁は6月10日、同国の外貨準備にオーストラリアドルを加えることを検討していると発言。カナダドルについては追加したが、まだ運用を開始していないという。

◆中国の外貨準備を運用している国家外貨管理局は6月10日に公表した年次報告書で、金市場は運用先としては規模が小さすぎ、流動性も低く、不安定だとの認識を表明。昨年の中国の金準備は2003年時点の600トンから1054トンに増加したが、増加分は主に国内の生産者から調達したとしている。

◆ロシアのメドベージェフ大統領が6月18日、ドルに代わる準備通貨創設に向けた中国当局者との協議を今後も続ける考えを明らかにした。

 最後に引用したロシア大統領の発言以外、ドルにとってそうネガティブな内容は上記には見当たらない。なお、そのロシアでは、5月27日時点でロシア連邦中央銀行のイグナチェフ総裁が、「われわれは保守的で、少なくとも今後数カ月は外貨準備の構造を変えない。これについて誰とも議論していない」「ユーロはある方向、別の方向と動く。それに慣れるべきだろう」と発言していた。ユーロ相場の大幅な下落に動揺して外貨準備の構成比率を変更するようなことはしないと表明しているわけである。