それに対して、プーチン大統領はいまだ一度も「2島返還で決着したい」と明確に語ったことはない。常にどうとも取れる曖昧表現でごまかしているが、それは故意だろう。もしかしたら、本当に2001年当時は2島返還を腹案として考えていたのかもしれないが、曖昧表現に徹したことで、現在もそうだということにはならない。

 さらに言えば、これまで領土問題が解決できなかった原因として、「日本側が一切の妥協を拒否してきたからだ」というような言い方を、ロシア側当局者は何度もしたことがある。これを日本側は「ロシアは2島返還まで妥協しているのに、と言っている」と勝手に解釈しているようだが、ロシア側はこれまで一度もそう具体的に言及したことはない。これも「なぜ具体的に言わないのか」を考えるべきだろう。

 2012年7月3日、メドベージェフ首相が国後島を訪問し、「ここはわれわれの領土だ。一寸たりとも渡さない」と語っている。プーチン大統領の曖昧表現に比べて、メドベージェフ発言は明確だ。そして、プーチン大統領はメドベージェフ発言を否定していない。

 筆者自身はもちろん、戦争のどさくさに他国の領土を強奪したロシアは、速やかに4島を一括返還し、これまでの不法行為を日本国民に謝罪すべしと考えているが、それと「情報を客観的に分析する」ということは別の問題であろう。どうも日本のメディア空間では、領土交渉の厳しさを指摘すると、返還の機運に水を差していると曲解される傾向があるが、相手のあるハードな駆け引きの場では、希望的観測に基づく思い込みは逆効果でしかないと思う。

 領土問題は実効支配側が圧倒的なアドバンテージを有するゼロサムゲームで、実効支配側によほどの不利益がなければ、交渉で動かすのは非常に難しい。現状、ロシア側はいくらプーチン大統領が口先だけで熱意を語ったところで、実際に領土返還に応じる約束は一切していないことを正しく認識する必要がある。

 すでにロシア政府が一度も検討を公表すらしていない「面積2等分案」まで話題に出ているが、北方領土問題はメディア各社が期待するほど甘いものではなく、日本政府は今後もタフな交渉を進めていかなければならない。

 この20年間、繰り返されてきたことは、例えれば、好きな女性を食事に誘い、「いずれそのうちに」との社交辞令を受けて、空気を読めずに「脈がある」と早合点しては振られ続けているようなものだ。

 相手は、領土問題では海千山千のあのロシアである。中国やノルウェー、あるいは旧ソ連邦のいくつかの国々との国境線問題は、基本的にはほぼ「フィフティ・フィフティ」の“手打ち”で決着されたが、だからといってロシアが日本とも同様の解決を希望しているとは限らない。甘い見通しに浮かれていると、再び“期待はずれの肩透かし”に終わるだろう。