いまから10年ほど前、東京大学教養学部で担当していた「情報処理」の授業、2002年頃と思いますが、文科I・II類のクラスで、「先生さー」と声をかけてきた2人組の男子学生のお話を前回からご紹介しています。

 「何させたいんだか分かんねーんだよね」

 どこでどういう教育を受けてきたのか知らないけれど、こりゃまた凄い口の利き方だな、と思いつつ、「どうした?」と応じると、

 「問題、何させたいのかよく分かんねーんだよ。これこれやれって言われたら、それやってやっからさ、何したら『優』くれんの?」

 と言う彼らは、「試験対策プリント」その他で、安っぽく粗製濫造された「共有解答例」に嵌まってしまっていたわけです。

 そして、学生たちが実のある学習の機会を逸することのないように僕が工夫した「テーラーメイド・カリキュラム」で、早道のインチキが通用しないのにイラついたのか、わざわざ教卓までやってきたのでありました。

 前回も記したように、僕のコースでは学生は全員、自分自身でこれから半年の間に自分が追求するテーマ案を自由に選ぶことができました。

 「環境問題に興味がある」「夏目漱石が好き」といったものから「ガンプラのマニアです」とか「スタジオジブリ命」とか、およそありとあらゆる学生の「自作問題」案、7年間で3000通以上のリポートを個別添削指導しました。

 この例は、その比較的初期の年次、まだ様子が分からなかった頃の話です。

「自分で決められない」東大生たち

 僕のコースでは学生は自由に自分のテーマを選ぶことができます。ということは逆に言えば、自分でテーマを決めなければならない、ということでもあります。

 それを「よく分かんねーよ、うざってーんだよ」と言う学生がいたわけです。

 正確な表現は覚えていませんが、「何やらせたいんだ分かんねーって、みんな言ってますよ。あの先生、頭おかしいんじゃないかって」みたいなことを言っていました。

 おお、典型的な受験病患者がおいでなすった、と思いつつ、

 「そんなに『優』が欲しいかなぁ? だってこのクラスは文I・IIだよね、進振りもないわけだし・・・」

 「進振り」というのは東大独自のシステム「進学振り分け」のことで、大学入学時点では「文科III類」とか「理科I類」と大きなくくりで学生採用し、1~2年次の成績によって、志望する専門学部・学科の「進学先」を「振り分け」ていくシステムのことです。