前回、社内における「IT標準化」について話をした。筆者が考えるIT標準化とは、業務の進め方やルールを社内で統一し、システムに求める必要最小限の機能を洗い出すことだと述べた。

 経営者にとって、IT標準化は「自分とは関係ない」と思いがちな部分である。だが、この「IT標準化」の意味が理解できていないばかりにどれだけ無駄なコストが発生しているのかを理解していただければと思う。

「標準化されたシステムであれば」という条件

 まず、IT標準化の難しさを示す事例を挙げよう。

 社内のシステム案件というのは、必ずどこかでデータの扱い方について検討しなければならない。データが散在したものだとシステム化する意味がないので、データを公約数にしたり、公倍数にしたりしながら「共有データベース(DB)」に格納する。

 筆者がいろいろな会社を見てきた中で、この「共有DB」の考え方が最も進んでおり、試行錯誤を重ねてきたのが、NTTである。

 1992年に米国のソフト開発会社、Knowledge Ware のユーザーカンファレンスに出席した時に衝撃を受けたのが、独R&D(当時)の「Rochade」という製品であった。

 Rochadeは、システムをこの製品の中で管理すると、OSや言語やデータベース製品に関係なく、プログラムやデータの形式を自由に変換できるというものである

 例えば、オラクルデータベースの中のデータをDB2(IBMのデータベース製品)内に移し替えることもできるし、コボルで書かれたプログラムをC言語へ変換することも容易にできるという、夢のような製品であった。

 この情報をNTTに伝えたところ、「ぜひ使ってみたい、購入したい」という。そこで、独R&Dに問い合わせたところ、社長が夫人を伴って即座に来日した。社長夫婦を築地の鮨屋に招待したところ、「標準化されたシステムであれば、分散されたシステムが自動的に統合化され、あたかも1つのシステムのように稼働します」と自信ありげに言っていたのを覚えている。

 だが、NTTは2億円もの費用をかけ、ずば抜けた頭脳の技術者集団が社内システムの再構築に取りかかったが、稼働させることはできなかった。理由は定かではないが、R&D社長の「標準化されたシステムであれば・・・」という言葉にカギがあったのだろう。