高く、希少な石油をいかに使うか?
EPR値の低下は、我々の暮らす社会に重大な影響を与える。このことを視覚的に確認してみよう。図は、「正味エネルギーの崖」(the net energy cliff)と呼ばれるグラフである。グラフのうち青い部分が我々の社会が使うことのできる正味のエネルギー量であり、赤い部分がエネルギーを取り出すために必要なエネルギー(=社会が使うことのできないエネルギー)である。

EPR値50は、全体の2%をエネルギー採掘に使い、残りの98%を社会が使うことを意味する。エネルギー採掘に必要な割合は、EPR40で2.5%、EPR30で3.3%、EPR20で5%と、初めのうちは、EPRが低下してもさほど大きな影響を受けない。
しかし、EPRが10を切るようになると、突如「崖」の存在に気がつく。EPR10で10%、EPR5で20%、EPR4で25%、EPR3で33%、EPR2で50%と、絶壁の如く、社会で使える正味のエネルギー量が急速に減少する。
我々が直面している問題は、石油の「量」が少なくなってきていることではない。「量」だけならまだ大量に残っている。
問題は、石油を取り出すためのエネルギー的コスト(金銭的コストではない!)が増大し、エネルギーの「質」が悪くなってきていることにある。両者を混同してはならない。
石油を「安く大量」に使える時代は終わりに近付いている。「使うことが可能な限られた石油」を、いかに有効に活用していくかを考えなければならない。無駄は禁物。これまでのように浪費するだけの余裕などないのである。

対策を先延ばしにすればするほど、EPRの値はますます低くなり、社会が使える正味エネルギー量も減少していく。金銭的コストも増大するだろう。最悪の場合、次の時代へシフトするだけの余裕を失ってしまうかもしれない。そうなったら最後、崖から転がり落ちることになる。脱石油社会を目指すにしろ、そのためのインフラを整備するためにはエネルギーが必要だし、日本はエネルギー資源産出国ではないことも認識しておかなければならない。
日本が崖の向こう側に転落しないためにも、我々は今こそ現実を直視し、エネルギーの問題と真剣に向き合う必要がある。