民主党は2009年も押し迫った12月30日の臨時閣議で、新たな経済成長戦略の骨格となる基本方針を決定した。2020年までに環境・健康・観光の3分野で100兆円の需要創出、400万人の新規雇用創出──という、誠に、頼もしい目標を掲げた。
経済成長率については「年平均3%(名目)」を目指すとしている。その程度の成長を続ければ、これまでと同じような生活シナリオを描くことができ、年金などの社会保障システムも存続可能である──ということなのだろう。もちろん、豊かで安定した暮らしが続くことには何の異存もない。可能であるならば、是非とも、民主党には年3%の成長目標を実現してもらいたい。
しかし、残念ながら、これからの日本が年3%の成長を続けることは、極めて非現実的である。その悲しい事実を論証してみたい。
原油生産減退率6.7%の本当の意味
2009年12月11日付の「やっぱり期待外れの『世界エネルギー展望』」の中で、国際エネルギー機関(IEA)のビロル博士の言葉を紹介した。ビロル氏によれば「既存の油田の生産の減退率は6.7%」だという。
「減退率6.7%」と聞いて、「なんだ、石油が危機的状況にあるなどと大騒ぎするほどの数字じゃないな」と思った人も多いのではないだろうか。しかし、実は、「減退率6.7%」はなかなか侮れない数字である。
「減退率6.7%」とは「毎年6.7%ずつ減る」ことで、その値は指数関数的に大きくなっていく。指数関数で現在値から半減(倍増)するまでの時間を求めるには、「70をその減退率(増加率)で割る」という便利な計算式がある。減退率6.7%の場合の半減期は、70÷6.7=10.448。
つまり、「減退率6.7%」とは「既存の油田からの生産量は10年半後には半減する」と同義。この時点で、ようやく、多くの人が事態の深刻さに気付くはずだ。
人間の脳は「指数関数的な振る舞い」をする現象を理解するのが苦手だ。だから、「減退率6.7%」と聞いても、その意味するものを直感的にイメージできない。ましてや、数学に苦手意識を持っている人にとっては、なおさらだろう。
初めはゆっくり、やがて加速度的にやってくる危機
コロラド大学のアルバート・バートレット教授の思考実験も、人間の脳が指数関数を理解することを苦手としていることを分かりやすく示している。その一部を紹介しよう。
分裂を繰り返し、1分ごとに倍増していくバクテリアが存在すると仮定する。バクテリアを午前11時にビンに入れて増殖の様子を観察したところ、1時間後にビンが満杯になった。ここで3つの質問について考えてもらいたい。
Q1 バクテリアがビンの半分まで増殖したのはいつか
Q2 あなたがバクテリアだとしたら、いつの時点でスペースが無くなることに気づくか
Q3 ビンが満杯なる前に、空ビンをさらに3本用意した場合、バクテリアはいつまで増殖を続けられるか。