世界エネルギー機関(IEA)が11月10日に発表した年次報告書「World Energy Outlook 2009世界エネルギー展望2009)」は、今年も、期待外れの内容だった。

次期IEA事務局長の田中伸男氏が記者会見 - 東京

IEA事務局長の田中伸男氏〔AFPBB News

 OECD(経済協力開発機構)枠内にあるIEAの報告書は、日本をはじめ加盟国のエネルギー政策の立案に影響を与える。それだけに、毎年この時期になると、各国のエネルギー専門家が注目する――と言いたいところだが、年次報告書が「政治的に脚色された公式発表」に過ぎないと冷めた目で見ているエネルギー専門家は多い。

 そして、政治的な脚色は、現代文明の根幹を支える石油の見積もりに関して特に顕著である。今年の報告書でも、既存のエネルギー政策を継続すれば、石油や石炭などの化石燃料は、2030年時点でも全体のシェアの3分の2以上と、引き続き最大のエネルギー源の地位を維持するとしている。

石油供給のピークはいつ訪れるのか?

 IEAの発表に懐疑的なのは、欧米の石油メジャーなどで実際に油まみれになって石油探査を続けてきた石油地質学者に多い。その代表格が、米テキサコ(2001年に米シェブロンが買収)や英BPなどで40年以上にわたって油田を探し続けてきたコリン・キャンベル(Colin Campbell)博士だ。

ナシリヤ油田開発、イラクと原則合意 日本3社連合

石油のピークは、もう、すぐそこまで来ている〔AFPBB News

 キャンベル博士は、世界中の油田を精査した結果、在来型の石油の供給量は既にピークを迎えているとする「石油ピーク」論者だ。キャンベル博士は、仲間の研究者等と共に2000年に「石油ピーク研究協会」(ASPO=the Association for the Study of Peak Oil and Gas)を設立、「石油のピークは2010年以前に訪れる」との警鐘を発し続けてきた。

 石油に関しては、一般的に「枯渇」(running out)が問題視されがちだが、エネルギーの専門家にとっては、「枯渇」よりも、供給ピークである「減耗」(depletion)がいつ始まるかが大きな関心事だ。従来は、石油の需要の増加に合わせて供給を増加させることが可能だった。しかし、減耗が始まれば、そうはいかない。「枯渇」する前の段階で、人類は、需要に見合う石油を供給できないという、初めての事態に直面しようとしている。