前回に引き続き、診療報酬の引き上げを巡る議論について、医療の現場からお話ししたいと思います(前回のコラムはこちら)。今回、焦点を当てたいのは、引き上げの比率についてです。

 昨年末のぎりぎりの折衝の結果、2010年度の診療報酬は0.19%増で決着しました。自民党時代に10年間にわたって引き下げられ続けてきた診療報酬が、政権交代により10年ぶりにプラス改定に転じたのです。

 長妻昭・厚生労働大臣は記者会見で「これを契機に医療崩壊に歯止めをかけていきたい」と語りました。確かに「医療をぶっこわして改革する」というハードランディングが現実化する危険は少し遠のきました。

 しかし、「プラス改定」とはいうものの、0%台では医療再生には全くと言っていいほど足りないのも、また厳しい真実なのです。

病院はギリギリのコストダウンに迫られている

 過去10年間にわたる医療費削減政策の影響もあって、私に言わせれば日本の医療の値段は「普通にやっていては絶対に黒字にできない」金額にまで抑え込まれています。病院の7割超が、そして民間診療所の3分の1が赤字なのは、何も不況のせいばかりではありません。

 過労死基準を超える医師の過酷な労働条件が指摘されているにもかかわらず、なかなか緩和されないのも、医療費削減政策と無縁ではありません。つまり、「労働基準法に違反しないように人員を増やしたら、赤字になってしまう」「ぎりぎりの人数で限界まで働いてコストを抑えないと、黒字にできない」という切羽詰まった側面もあるのです。

 例えば採血処置の代金は110円(11点)です。110点(1点10円として1100円)の間違いではありません。この金額の中に、採血に使う針やシリンジ、真空管などの必要な資材の代金も含まれます。

 この場合、1人につき3分程度、つまり1時間に20人の採血を行なったとしても、売り上げとして2200円(110円×20人)にしかなりません。目一杯頑張って働いても、看護師さんの人件費(時給1500円くらい)すら捻出できるかできないかギリギリ、といった事態になるのです。