味噌と醤油はどちらが先に生まれたのか

醤油にまつわる「偶然」の物語(前篇)

2011.07.22(Fri) 漆原 次郎
筆者プロフィール&コラム概要

 では、麹菌はどんな役割を果たすのか。

東京農業大学短期大学部醸造学科の舘博教授。2010年から短期大学部部長。1997年度日本醸造協会技術賞、2010年度日本醤油技術賞受賞

 「麹菌の酵素で原料を分解するのです」と舘教授は続ける。麹菌は「酵素」という物質をつくる。麹菌のつくる酵素は、大豆や小麦からなる物質をばらばらに分解する。醤油づくりの工程では、この分解が進むことで、うま味の成分などが出てくる。また、麹菌が分解した成分が、醤油乳酸菌や醤油酵母の栄養源となる。一言でいえば、麹菌は、醤油の味わい深さを醸し出す主要材料を作り出す、というわけだ。

 「お醤油づくりには、“一麹、二櫂、三火入れ”という言葉があります。櫂つまり諸味の管理や、火入れつまり製品管理も重要ですが、何より良い麹ができなければ、おいしいお醤油はできないということです」。そして、日本にはこの麹をつくるのに適した風土がある。「日本人は、暑くてじめじめして、カビが生えやすい気候を逆手にとって、麹をつくってきました」

醤油の酵素探しから「大発見」が生まれた

 醤油づくりにとって欠かせない麹菌。当然ながら、舘教授も研究で長いこと麹菌と向き合ってきた。研究のハイライトの1つは、1992年に訪れる。

 当時、舘教授は、東京農工大学の一島英治教授(現名誉教授)のところに出向き、酵素の研究をしていた。一島氏は麹菌を「国菌」にすることを提唱した人物でもある。この提唱を受けて日本醸造学会は2006年、正式に「麹菌をわが国の『国菌』に認定する」と発表している。

 一島氏のもとで舘教授が目指していたのは、「ある酵素」を探すことだった。「お醤油の中には、グルタミン酸という物質がたくさん含まれています。グルタミン酸を特異的に出す酵素があるのではないかと考えて、その酵素を探していたのです」

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1975年生まれ。神奈川県出身。出版社で8年にわたり理工書の編集をしたあと、フリーランス記者に。科学誌や経済誌などに、医学・医療分野を含む科学技術関連の記事を寄稿。日本科学技術ジャーナリスト会議理事。著書に『日産 驚異の会議』(東洋経済新報社)、『原発と次世代エネルギーの未来がわかる本』(洋泉社)、『模倣品対策の新時代』(発明協会)など。


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