梅酒といえば、一昔前までは「家庭で作るもの」であった。青々とした梅を焼酎と氷砂糖で漬け込む、庶民派のお酒の代表とも言える梅酒は、どこの家庭でも一度は作ったことがあるのではないだろうか。

 我が家でも祖母の代から毎年梅酒を仕込み、食欲がなくバテ気味の時は、決まって手作りの梅酒のお世話になっていた。

 独特の梅の酸味が食欲をそそり、疲労回復に効果があると言われているクエン酸をたっぷり含んだ梅酒は、アルコールを楽しむというより、健康志向の強い飲み物だったと言える。

 ところがここ数年、家庭で作る「薬酒」的な立場から、梅酒が大きく変わってきた。じわじわと梅酒ブームが起き、大手メーカーをはじめ、地域の酒蔵でも梅酒を製造するようになり、取り扱う飲食店も多くなった。

オンザロックの香りに驚く

 梅の最良品種として名高い「南高梅」の産地、和歌山県田辺市に、日本を代表する梅干メーカー「中田食品」がある。創業は1897(明治30)年という老舗だが、ここで出している梅酒はすごい。

高級感あふれる「樽」のボトル

 木目調の化粧箱の中にボトルが鎮座している。「樽」と書かれたラベルは高級感があふれ、「紀州南高完熟梅酒」と記されていなければ、誰もがその琥珀色のお酒を高級ブランデーだと思い込んでしまうのではないだろうか。

 お勧めに従い、ここはオンザロックでいってみる。まず、グラスに顔を近づけた時の香りに驚かされる。梅の香りが実に深い。幾重にも重ねられたような重層的な熟成香が鼻腔をくすぐる。

 続けて梅酒を口に含むと、さらに驚きが増す。重厚な香りのイメージとは打って変わり、何ともフルーティーなのだ。梅が醸し出す自然の甘さが、口いっぱいに広がっていくのである。

完熟梅を使い、オーク樽で1年以上熟成

 私が持つ「梅酒」の固定観念を覆した「樽」は、一体どのように作られているのか。

 「樽」の原料となるのは、言わずと知れた南高梅。国内で生産される国産梅の6割を誇る和歌山県を代表する品種である。和歌山のブランド梅であるだけでなく、梅のトップブランドとして広く知られている。