女性が大好きな食べ物の1つ、焼き芋。

 「い~しや~きいもぉ~」の声と共に現れる焼き芋売りのおじさんは、その昔は冬の風物詩でもあった。少し皮が焦げてホクホクした焼き芋は、家で作るそれとは甘さも食感も全く違っていて、子供心にも「焼き芋屋さんの石焼き芋は美味しい!」と感じたことをしっかり記憶している。

 最近はスーパーでも焼き芋の機械を導入しているのを見かけることが多く、根強い焼き芋ファンの存在は相変わらずだと感じるが、都内では「お芋ソムリエ」なる店員を配した専門店も人気を集めているそうだ。

 産地や味にこだわった焼き芋を常時2~6種類用意し、商品を熟知した「お芋ソムリエ」が、好みに合った焼き芋を選んでくれるという。

 「鳴門金時」に代表されるような、普段から馴染みの深い「サツマイモ」だけではなく、紫芋や紅芋、スイーツのような甘さを持った芋など、焼き芋の幅もどんどん広がっているようだ。

鉄砲とさつまいもが伝来した島

 焼き芋用の芋として、ここ数年、急速に人気が高まってきたものに、「安納いも」がある。

安納いもと種子島紫いも

 鉄砲伝来とロケットで有名な鹿児島県の種子島で栽培されている「幻の芋」とも呼ばれている品種だ。実は種子島は日本におけるサツマイモ(当時は原種)の最初の栽培成功地でもあった。

 元禄時代、相次ぐ台風の被害とその後の日照りによって農地が荒れ、食うに困る暮らしをしていた種子島の島民たちのために、当時の島主であった種子島久基は、琉球王国(現沖縄県)で作られているという、日照りに強く収穫が多い、しかも旨いという噂の作物で島民を救えるのではないかと考えた。

 そこで、琉球の王様に苗を分けてもらえるよう親書を送り、それによって届いた1かごの苗によって、サツマイモ栽培が始まったのだ。

 それから長い年月が経ち、種子島では様々な品種のサツマイモが栽培されるようになった。その中に、種子島安納地区などの農家が自家用に育てていたサツマイモがあった。それが「安納いも」だった。

甘さはマスクメロン以上

 安納地区で作られていた「安納芋」の種芋を元に、表皮の色が薄茶色の「安納紅」と、白っぽい「安納こがね」という2つの品種が生み出された。それらの栽培は種子島地区に限定許諾されており、今や種子島を代表する作物となった。

 手のひらにすっぽり収まるほどの小ぶりの芋ながら、生の状態で糖度は16度にもなるという(ちなみにマスクメロンは14度程度と言われる)。