写真提供:日刊工業新聞/共同通信イメージズ
2030年、バブル世代が大量退職を迎え、属人的なノウハウに依存してきた営業現場は、深刻な危機に直面する。この状況を乗り越えるには、社内に眠る「営業の知」を掘り起こし、経営資源として位置付けることが欠かせない。本稿では『2030年の営業』(水嶋玲以仁、天白由都、深瀬正人著/日経BP 日本経済新聞出版)から内容の一部を抜粋・再編集。企業の取り組み事例から、「営業の知」を手にするための道筋を探る。
今回は、NECが生成AIによる業務改革を進める中で、保守的な企業風土を変えるために講じたさまざまな工夫を紹介する。
業務改革を動かす“やってみる”を許す空気
『2030年の営業』(日本経済新聞出版)
■「文化設計」に取り組む
NECで進み始めた生成AIを活用した業務変革の裏には、制度やツールだけでは説明できない「空気の変化」があるように思われます。
社会インフラを長年支えてきた企業として、NECには「失敗してはならない」という強い自律意識と責任感が根付いていました。
業務ではスピード以上に精度の高さや品質の保証が何よりも重視され、裏を返せば「まずやってみる」という拙速な行動を、どこかでためらってしまう空気が社内に広がっていたのです。
たとえば業務プロセスの見直しひとつ取っても、かつては現場が実装まで手を動かす前に「何があっても失敗しないこと」が求められていました。慎重を重ねた分だけスピードは落ち、改善の着手は遅れがちになる――そんなジレンマが至るところに存在していたのです。
しかし、そうした企業文化が、生成AIをきっかけとしていま、確かに動き始めています。
「新しい技術がどんどん入ってくるので、仮説ベースで動いて、失敗しても次にチャレンジするというカルチャーができあがってきていると感じます」(若林氏)
この言葉が示すのは、NECのような保守的な文化の伝統ある企業においても、「試して、失敗して、また試す」という循環が根づきつつあるという変化です。その背景には、組織のカルチャーを“あえて揺るがす”意図的な設計がありました。








