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 2030年、バブル世代が大量退職を迎え、属人的なノウハウに依存してきた営業現場は、深刻な危機に直面する。この状況を乗り越えるには、社内に眠る「営業の知」を掘り起こし、経営資源として位置付けることが欠かせない。本稿では『2030年の営業』(水嶋玲以仁、天白由都、深瀬正人著/日経BP 日本経済新聞出版)から内容の一部を抜粋・再編集。企業の取り組み事例から、「営業の知」を手にするための道筋を探る。

 今回は、日本企業が生成AIの活用で直面しやすい三つの構造的課題を取り上げ、その上でNECが描く「日本だからこそ見える勝ち筋」に迫る。

■ 構造レベルで見直せない、3つの理由

2030年の営業』(日経BP 日本経済新聞出版)

 では、なぜそこに踏み込めないのか。野口氏はその背景を3つの視点から明快に語っています。

「たとえば通信などの体力のある業界は、AIや生成AIといった新しい技術を受け入れやすいですが、受託開発などでビジネスをされているお客さまは、なかなか余力が出てこない」 (野口氏)

 経営資源の差は、技術導入の可否を大きく分ける要素です。多くの企業にとって、PoCは精一杯のリソースで行う“特別プロジェクト”であり、継続・拡張のための投資余力までは確保できていないという現実があります。

「それから、製造業の場合は設計データがCADで作られていて、そもそもテキスト情報ではないので、生成AIとの相性があまり良くないというケースもあります」(野口氏)

 AIの活用は“テキストで書かれた知”をもとに進化してきました。しかし、製造業をはじめとする現場型の産業では、主な知の表現形式は「図面」や「寸法」「暗黙の作業指示」などであり、テキスト情報としての整備が進んでいません。これではAIの“学習材料”としても扱いづらく、活用のスタート地点に立つことさえ難しくなります。

「また、ホワイトカラーの方々の業務も、あまり言語化されていないので、ナレッジとして蓄積できていないのが実態です」(野口氏)

 たとえば営業であれば、「どんな言い回しで断られたか」「先方のニュアンスがどう変わったか」といった気づきは、日報にはまず書かれません。