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 2030年、バブル世代が大量退職を迎え、属人的なノウハウに依存してきた営業現場は、深刻な危機に直面する。この状況を乗り越えるには、社内に眠る「営業の知」を掘り起こし、経営資源として位置付けることが欠かせない。本稿では『2030年の営業』(水嶋玲以仁、天白由都、深瀬正人著/日経BP 日本経済新聞出版)から内容の一部を抜粋・再編集。企業の取り組み事例から、「営業の知」を手にするための道筋を探る。

 今回は、組織特有の判断や行動傾向を指す「組織としてのヒトらしさ」を生かし、変革を実現したコマツの事例を取り上げる。

成功事例:コマツ

2030年の営業』(日経BP 日本経済新聞出版)

 日本を代表する建設機械メーカーであるコマツは、優れた建設機械を販売することで成長を遂げてきました。しかし現在、同社の価値は単なる建機の提供にとどまらず、IoTやデジタルプラットフォームを介して施工プロセス全体の最適化を支援する企業へと進化しています。

 建設施工そのものの担い手ではないはずの機械メーカーが、どうしてデジタルソリューションで建設現場の課題を解決できるようになったのでしょうか。この変革の成功を探るには、「ダントツ経営」というコマツの経営戦略と、「5ゲン主義」という社員の間で長年培われてきた気風の2つを理解する必要があります。

 コマツは長年にわたり、耐久性・燃費性能・作業効率の向上といった技術革新を重ね、建設機械メーカーとして確固たる地位を築いてきました。しかし業界が成熟するにつれ、単なる「より良い機械の提供」では顧客の根本的な課題を解決できなくなってきました。なぜなら建設業界では、労働力不足・施工プロセスの非効率性・コスト削減のプレッシャーといった、オペレーション面での問題が深刻化していたからです。

 こうした課題に対し、コマツはダントツ経営の視点から、自社の役割を再定義します。そこで見出したのはモノづくりの優位性ではなく、“施工全体の効率を飛躍的に向上させ、業界そのものを変革する”という新たなビジョンでした。こうしてコマツは建機の販売だけではなく、施工プロセスを最適化するサービスを提供する企業へと進化する道を歩み始めたのです。

 ここで驚くべきは、コマツが建設現場に潜む課題に気づくことができた点です。建設におけるコマツの役割は建機の提供であり、現場での施工プロセスと建機の販売に直接の接点はありません。コマツの社員は商品開発でもない限り、建設現場に立ち入る必要すらないはずです。