写真提供:Samuel Boivin/NurPhoto/共同通信イメージズ

 2025年初頭、世界中で話題となった生成AI「ディープシーク(DeepSeek)」。チャットGPTと遜色ない性能で、しかも無料で使えるとあって、わずか1カ月で1億ダウンロードを達成した。しかし、この中国発AIの真の革新性は、ユーザー自身がデータを管理できる「分散型AI」の概念を取り入れていることにある。そう遠くない未来に、「誰もが自分のAIを持ち、使いこなす時代」がやって来るかもしれない――そのとき、私たちはAIとどう向き合うべきなのか。ソフトバンクやアクセンチュアでAI エンジニアとして活躍してきた著者が、ディープシークの可能性と課題、そして生成AIの未来について記した『DeepSeek革命』(長野陸著/池田書店)から内容の一部を抜粋・再編集。

 今回は、すでに始まっている「量子AI」の覇権争いについて、日本の行く末と共に考察していく。

米中がしのぎを削る量子AI覇権戦争

DeepSeek革命』(池田書店)

 AI技術が飛躍的に進化する中で、次の大きな転換点として注目されているのが「量子AI(Quantum AI)」です。

 量子AIとは、量子力学に基づいた量子コンピューティング(Quantum Computing)と人工知能のアルゴリズムを組み合わせることで、従来のコンピュータでは処理が困難だった大規模・高次元の問題を、桁違いのスピードで解決することを目指す革新的な技術です。

 従来のAIは、GPUなどの並列計算を駆使、いわば「計算力による力技」で膨大な演算処理を可能にしています。しかし、モデルサイズの肥大化に伴い、学習にかかるエネルギーコスト・時間・データ収集の負荷が深刻化しています。

 GPT-4の学習について正確なパラメータ数は公開されていないものの、数千億パラメータ規模の大規模モデルであると推定されており、そのトレーニングには膨大な計算資源と電力が必要だったとされています。計算資源の偏在や持続可能性(サステナビリティ)の観点からも、抜本的な突破口が求められているのが現状です。

 このような課題に対して、量子AIは指数的なスケーラビリティ(※1)を備えた計算アーキテクチャ(※2)を活用することで、従来の枠組みを超えるパフォーマンスを発揮する可能性を秘めています。

※1:計算規模や負荷の増大に対応できる柔軟性。
※2:コンピュータなどのシステムの基本設計や構造。