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 2025年初頭、世界中で話題となった生成AI「ディープシーク(DeepSeek)」。チャットGPTと遜色ない性能で、しかも無料で使えるとあって、わずか1カ月で1億ダウンロードを達成した。しかし、この中国発AIの真の革新性は、ユーザー自身がデータを管理できる「分散型AI」の概念を取り入れていることにある。そう遠くない未来に、「誰もが自分のAIを持ち、使いこなす時代」がやって来るかもしれない――そのとき、私たちはAIとどう向き合うべきなのか。

 ソフトバンクやアクセンチュアでAI エンジニアとして活躍してきた著者が、ディープシークの可能性と課題、そして生成AIの未来について記した『DeepSeek革命 オープンソースAIが世界を変える』(長野陸著/池田書店)から内容の一部を抜粋・再編集。今回は、従来のクラウド型AIにはない、「分散型AI」という発想を取り入れたディープシークならではの強みと、それを支える技術基盤に迫る。

ディープシークは何を目指すのか巨大IT依存からの脱却

DeepSeek革命』(池田書店)

 ディープシークの開発ミッションは、「分散型AIを通じて、誰もが自由に利用できる高性能なAI基盤を提供すること」でした。

 アメリカのクラウド型AIは、数千億のパラメータを持つ巨大モデルの運用に適している一方で、一部の世界的に影響力のある巨大なIT企業が計算リソースを独占し、中小企業や個人開発者にとって利用しづらい状況が生まれていました。

 さらに、AIモデルのトレーニングに使用されるデータが特定の企業や国に集中することで、データの公平性や主権に関する懸念も浮上しています。

 ディープシークは、従来のクローズドなAIモデルとは異なり、開かれた開発環境を整えることで、より多くの研究者やエンジニアが参加できるプラットフォームを目指しています。これにより、技術革新のスピードを加速させると同時に、特定の企業や国に依存しないAIの発展を促進しています。

 特に中国や欧州では、データローカライゼーション(データを国内で管理する規制)が進んでおり、国や企業ごとに独自のAI基盤を構築する必要性が高まっています。

 ディープシークは、このような状況を打破し、より分散的で持続可能なAIモデルの提供を目指して開発されました。