
近年、車両の電動化・ソフト化が進み、大きな分岐点を迎えている世界の自動車産業。米テスラや中国の比亜迪(BYD)といったEV勢の存在感が増す今、日本の自動車産業はいかにして世界の競合と戦うべきなのか。「ソニー・ホンダモビリティは、その疑問に全力で答えを出そうとしている」と語るのは、2024年11月に書籍『ソニー×ホンダ 革新を背負う者たち』(日経BP 日本経済新聞出版)を出版した日本経済新聞社の記者、古川慶一氏と田辺静氏だ。異業種の2社がタッグを組んだ背景に何があったのか、ソニーとホンダの徹底取材を続けてきた二人に話を聞いた。(前編/全2回)
ソニーがモビリティ参入に至るまでの「2つの節目」
──著書『ソニー×ホンダ 革新を背負う者たち』では、ソニーとホンダによる次世代モビリティの開発の内幕に迫っています。ソニーは祖業のエレクトロニクスに始まり、金融・映画・ゲームといった新規事業に挑み続けてきましたが、長らく自動車産業には本格的に参入していませんでした。ソニーが今回モビリティ参入を決めた背景にはどのような経緯があったのでしょうか。
古川慶一氏(以下敬称略) ソニーがモビリティ参入に至るまでには、大きな節目が2つありました。1つ目は、2014年8月に発表された車載向けCMOS画像センサーへの参入です。
当時のソニーはリーマン・ショックが起きた2008年度からの7年間の最終赤字が累計1兆円を超えており、危機的状況にありました。経営の立て直しが喫緊の課題だった同社が「起死回生の一手」としたのが、車載分野への参入です。「スーパー縦社会」と言われる日本の自動車業界で新参者への洗礼を浴びながらも、2023年度には世界シェア32%と存在感を高めています。
2つ目は、EV試作車「VISION-S」の開発です。最終製品であるEVそのものを扱うことになれば、車載部品よりも深く人命に直結することになります。ソニー社内でも何度も議論を重ねたそうですが、最終的には「携帯からモバイルへの変化は、人々の生活を大きく変えたメガトレンドだった。次のメガトレンドはモビリティだ。技術の進化がEVや自動運転に移るのであれば、ソニーとして放っておく道理はない」と、成長の可能性を果敢に追求する「ソニーらしさ」が決断を後押ししました。
そして、こうした2つの節目においてソニーが向き合ってきたのが、創業者時代から続く重しともいえる、ある「不文律」でした。