
大規模な組織改革を進めるワコール。改革の鍵となるのは、デジタルを活用した顧客体験の進化だ。店舗改革の起点となる3Dボディースキャナー計測サービス「3D smart&try」(現SCANBE)を立ち上げた、ワコール 取締役 執行役員 マーケティング本部長の篠塚厚子氏に話を聞いた。
過去の成功体験から脱却し、時代に即した価値を提供する
──ワコールグループではDXの推進と大規模な組織改革に取り組んでいるとのことですが、背景にはどのような理由があるのでしょうか。
篠塚厚子氏(以下敬称略) 一言で言えば、経営環境が厳しくなっているということです。当社グループの創業は1946年ですが、ワコールホールディングスは、2023年3月期の連結最終損益(国際会計基準)で、創業以来初の赤字となりました。24年3月期も赤字で2期連続です。20年近くにわたり、中期経営計画も達成できていません。何としてでも会社を変えなければならない状況にあります。

なぜ経営が厳しくなったかと考えれば、やはり過去の成功体験がネックになっていると思います。当社グループはこれまで、百貨店や量販店などのチャネルを前提としたビジネスを展開してきました。高度成長期を含め、戦後の日本社会が成長した際に、これらの出店拡大とともに当社のビジネスも拡大していったのです。ただ、それが故にお客さまよりもチャネル重視のビジネスモデルになってしまっていました。
ところが、デジタルが当たり前のものになり、スマートフォンの画面上にECの店舗が並ぶ時代になって、かつてのような実店舗チャネルを前提としたビジネスが通用しなくなってきました。
ただし、それに気づいたのが2010年代前半で、すでに大手ECサイトが台頭してきていました。消費者の変化が顕著になっていたにもかかわらず、旧来型のビジネスモデルに固執したことで、変化へのシフトの遅れにつながったと反省しています。
──もともと、アパレルメーカーでは、チャネルごと、ブランドごとの縦割りでビジネスを展開している会社が多かったですね。