つまりROEは、自社の株主資本コストと比較しなければ意味がないのです。これが「資本のコストに見合うだけの利益」ということです。
では、なぜROICの分子は「税引後営業利益」なのでしょうか。ROICの分母が「有利子負債+自己資本」になっていることからわかるように、ROICの利益率とは、お金を貸している債権者と出資している株主にとっての利益率なのです。ここは大切なところなのでもう少し詳しく説明しておきます。
会社が稼ぎ出した利益は3カ所への支払いが必要になってきます。まずは債権者への利息の支払い、次が政府機関への税金の支払い、そして最後が株主への配当金の支払いです。
ROEは株主にとっての利益率、つまり自己資本にとっての利益率ですから、その計算式の分子は、株主への配当金支払いの原資になる当期純利益になります。
一方ROICは、債権者と株主にとっての利益率ですから、分母は「有利子負債+自己資本」で、分子は債権者への利息支払いと株主への配当金支払いの原資となる、税金を支払った後の利益である「税引後営業利益」なのです。
論理的に言えば、分子は「利払前税引後利益」が正しいと思いますし、そのように解説しているROICの解説書もあります。ただ、ROICは本業の営業成績を重視しますので、一般的に分子を「税引後営業利益」にしているものと思われます。ちなみに、ROICの計算式の分子を何にすべきかについてはさまざまな議論があります。
ROICの数値もROEの数値と同じように、ただ単に他社の数値と比較してもあまり意味がありません。資本にはコストが掛かっており、その資本コストは会社によって異なるからです。
ROICは、「有利子負債+自己資本」のコストであるその会社のWACCと比較しなければ意味がないのです。繰り返しますが、これが「資本のコストに見合うだけの利益」ということなのです。
<連載ラインアップ>
■第1回 「企業は社会の“器官”である」ドラッカーが指摘する、企業が果たすべき3つの役割とは?
■第2回 ドラッカーが説く、企業の「第一の責任」とは?経営者が財務会計を理解しなければならない本質的な理由
■第3回 なぜ「配当」の仕組みを知らなければ、資本主義社会における財務会計の意味を理解できないのか?
■第4回 なぜROICはWACCと比較しなければ無意味なのか?ドラッカーが指摘する「資本のコストに見合うだけの利益」とは?(本稿)
■第5回 スバルとマツダ、アサヒとキリン…業界のライバル同士は、いかに異なる戦略をとって成長してきたか?(12月9日公開)
■第6回 「自社の事業は何か」ドラッカーのシンプルな問いに答えることが、なぜ経営トップにとって極めて重要なのか?(12月16日公開)
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