人的資本経営では、人事の取り組みと企業成長への関連性を可視化し、定量的に説明することが求められる。そのために欠かせない各種の人事データをどのように活用すればいいのか。
前編に続き後編では、第2回CHROラウンドテーブルで検証したエンゲージメントデータの活用事例を参考に、データドリブンな人事の在り方について富士通取締役執行役員SEVP CHROの平松浩樹氏に聞いた。(後編/全2回)
■【前編】人的資本経営には、なぜ「ストーリー」が必要か?富士通の平松浩樹CHROが語る、経営戦略と人材戦略の連動
■【後編】エンゲージメント調査の“落とし穴”と効果的な活用法とは?富士通の平松浩樹CHROが語るデータドリブンな人事(今回)
エンゲージメントスコアを見誤ってはいけない
――第2回CHROラウンドテーブルは、富士通を含む6社が参加し、2023年7月から2024年5月まで6回にわたって行われました。2回目のテーマは、人的資本経営における「データ活用」でしたが、なぜデータに着目したのでしょうか。
平松浩樹氏(以下敬称略) 第1回CHROラウンドテーブルでは、人的資本価値向上モデルを用いたストーリーの構築に取り組みましたが、具体的な議論を重ねていく中で、データ活用に関する課題が浮き彫りになりました。やはりわれわれ自身、まだまだデータドリブンな人事になり切れていないと痛感しました。
戦略的な人材投資をするためにも、適切なKPI(重要業績評価指標)を設定して、取り組みの効果を可視化していくことが必要になります。しかし現状では、どこにKPIを置いてどのような人事データを収集したらいいのか、どのように分析すれば経営戦略や業績との関連性を示せるのかなど、多くの企業が試行錯誤を重ねている段階です。
人的資本経営を実践していく上で欠かせないデータの活用について、もっと皆で議論してレベルを上げていこうという話になりました。
――日本でも2023年3月期の決算から、有価証券報告書を発行している大手企業を対象に、人的資本情報の開示が義務化されました。株主・投資家も含めたステークホルダーに対して、非財務指標として人的資本の状況を定量的な数値を示すことが求められおり、ますます人事データを収集・分析する重要性が高まっています。第2回CHROラウンドテーブルでは、その中でも特にエンゲージメントデータにフォーカスしていますね。
平松 エンゲージメントサーベイを実施している企業は増えており、非財務指標としてそのスコアを開示しているところも少なくありません。各社が共通で持っており、最も議論しやすいものとして、エンゲージメントデータの活用を検討することにしました。
ただし検討に当たって、共通認識として持っていたのは、エンゲージメントデータを見る時に、総合的なスコアだけにとらわれないということです。