人間の活動は自然資本に大きく依存していますが、一方でそれらに「影響」も与えています。IPBES(Intergovernmental Science-Policy Platform on Biodiversity and Ecosystem Services:生物多様性および生態系サービスに関する政府間科学─政策プラットフォーム)のレポート(2019)によれば、生物多様性を破壊する最大の要因は人間による土地・海域の利用や変更であり、人間の活動により自然の状態は急速に悪化する傾向にあるとされています。

 こうした自然への依存・影響と事業活動の関係は、自然資本金融アライアンス(NCFA)や国連環境計画世界保全モニタリングセンター(UNEP-WCMC)などが開発したENCORE等のツールで整理されていますが、どの産業も何らかの形で自然と関係しています。

 また、多くの製品はサプライチェーンの最上流で化石燃料や鉱物の採掘、農業、木材の伐採など、自然と直接関係する産業の製品やサービスと関連しています。あらゆる企業活動は自然に対し、多かれ少なかれ、あるいは直接的、間接的などの別はあっても、何かしらの形で自然と関係していると考えられます。

ネイチャーポジティブの定義と重要性
自然の損失を止め反転させるネイチャーポジティブへの対応が企業に求められている

■自然の損失とネイチャーポジティブ対応

 前項で述べたように、人間の活動により自然は悪化傾向にあります。ダスグプタ・レビュー(2021)ではManagi and Kumar(2018)による分析結果を参照し、「一人当たり自然資本ストックの価値が1992年から2014年で40%近くも減少した」としています。

 このまま自然資本の損失が続いた場合、自然資本が生み出すさまざまなサービスが失われ、それに依存している経済活動にも多大な損失が生じると考えられます。このため、自然資本の損失を止めて反転させていくことを目指すネイチャーポジティブが経済・社会にとって重要と考えられます。

 こうした中、世界全体で国際目標や政策、各種イニシアチブ等によるネイチャーポジティブに向けた対応が進んでいます。この課題に適切に対処できない企業は、政策や規制、評判等のリスクを負うほか、取引条件や市場の選好に自然資本への対応が考慮されるようになれば、競争力にも影響する可能性があると考えられます。