温室効果ガスの実質ゼロを目指す「カーボンニュートラル」に加え、ここにきて「ネイチャーポジティブ」への対応が本格化している。生物多様性の損失を止め、自然再興を目指す取り組みだが、その難易度は高い。そこで本連載では、『カーボンニュートラルからネイチャーポジティブへ サステナビリティ経営の新機軸』(野村総合研究所編/中央経済社)から内容の一部を抜粋・再編集し、国内企業の取り組みを紹介。サステナビリティ経営の新たな在り方を考察する。
第1回は、基本概念である「自然資本」と「ネイチャーポジティブ」について解説する。
<連載ラインアップ>
■第1回 人間の活動により価値は40%減少、自然資本の損失が企業活動に与える「3つのリスク」とは?(本稿)
■第2回 キリンHD、日本製鉄、神戸製鋼所…国内企業は生物多様性の保全にどうコミットしているのか?
■第3回 明治HDの「アグロフォレストリー農法」、花王の「ハイリスクサプライチェーンからの調達」とは?
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自然資本と企業活動
あらゆる企業活動は自然資本に依存し、また影響を与えている
■自然資本とは
本書のはじめとして、自然資本とは何か、それがどのように企業活動と関係しているかを理解しておくことか、という点について簡単に整理します。
自然資本とは、その名のとおり「森林、土壌、水、大気、生物資源など、自然によって形成される資本」(環境省「平成26年版生物多様性白書」)であり、さまざまなサービスを社会に提供しています。
具体的には、①食糧や水、木材やその他資源を供給する供給サービス、②大気や気候、水量の調整や土壌浸食の抑制などの調整サービス、③景観の保全や文化・芸術、科学・教育に関する価値を提供する文化的サービスなどが存在します。④鉱物や金属、石油と天然ガス、地熱、風、潮流、季節なども、自然によるサービスといえます。また、①~③は生態系サービス、④は非生物的サービスといいます(Capital Coalition, 2016)。
また、生物多様性という概念もあります。これは生物同士の個性とつながりのことで、生物、種、遺伝子の3つのレベルがあるとされています(環境省)。上記の生態系サービスを下支えするもので、それ自体も自然資本の一部とされています(Capital Coalition 2016)。
■企業活動と自然資本
企業はこうして生物多様性を含む自然資本から生じるフローとしてのサービスを利用して、事業を行っています。IIRC(International Integrated Reporting Council:国際統合報告評議会)の国際統合報告フレームワークでは、6つの資本の1つとして自然資本を位置づけており、自然資本は、企業活動にとって極めて重要な役割を担っているものといえます。
このように、企業活動を含む人間社会は自然資本が提供するサービスを利用していますが、言い換えれば、それらのサービスに「依存」しているということになります。世界のGDP(当時)の半分超である44兆ドルが何らかの形で自然とそのサービスに依存しているという試算もあり(世界経済フォーラム〔2020〕)、自然資本なしに現状の経済活動は維持できないと考えられます。