決まってからが大変です。訪問する際に乗っていくクルマも、副社長ですから営業車の助手席という訳にはいきません。友人にお願いしてBMWを借ります。まてよ、グレッグさんは日本語がまったく話せない。どうすれば…、また、藤野さんに相談です。「いいわよ、私が秘書兼通訳として一緒に行ってあげる」と心強い返事をもらいました。手土産も手配し、これで準備万端です。

 当日、副社長のグレッグさんと急ごしらえの秘書兼通訳の藤野さん、慣れないBMWのハンドルを握る運転手役の私。先方の駐車場にクルマで乗り入れ、3人で本社の受付に向かいます。

 先方には日本コカ・コーラ社からアメリカ人の副社長が一緒に伺う旨を事前に伝えてあります。案内の方が会議室のドアを開くと、そこには部長どころか、トップ、役員が並んでいます。一気に緊張感が高まります。

 いよいよスタートです。グレッグさんが開口一番「私は素晴らしいアミューズメントチェーンがあると伺いご挨拶に来ました。皆様は私たちの最も重要なお客様だと捉えており、大切なパートナーとして精一杯の支援をさせていただきたいと考えております。今日のこの時間をお互いにとって有意義なひと時にしましょう」。

 グレッグさんの言葉を通訳し、相手に伝える藤野さん。2人と先方のやり取りを横で見ていると、さながらどこかの国際会議のようです。いままでに私が経験したことのない場の雰囲気で、先方の態度もいままでとは少し違ったものを感じます。何より通常の商談では聞かれない前向きな話が出てくるのです。

 結局、その場で機材の導入が決まってしまいました。いままでの苦労が噓のようです。話し合いを終えて、先方のトップと握手を交わすグレッグさん。エントランスで見送られ、本社を後にしました。少し走ったところでクルマを停め、話の内容を確認します。その時、藤野さんから言われました。

「営業は1人だけでやる時代じゃない。組織営業とよく言われるけど、自分が持っている資産をすべて使うということを本当に考えている人は少ないのよ。これからもその姿勢を忘れないでね」

 現場の商談で、グローバル企業である日本コカ・コーラ社のアメリカ人の副社長の力を借りる。それまでの私の常識では考えられませんでしたが、常識を超える非常識なやり方の先に、いままで得られなかった結果が待っていました。パシフィックグループの関連店舗に私たちの機材が次々と設置されたのです。

<連載ラインアップ>
第1回 「コカ・コーラを日本一売った男」が、上司のひと言で気づいた新規開拓のコツとは?
■第2回 持てる資産を全て生かせ! 日本コカ・コーラのアメリカ人副社長から学んだ「組織営業」の極意とは?(本稿)
■第3回 日本コカ・コーラのセールスコンテストで日本一をとった男が、「社内営業」の大切さを知った“長老”の苦言とは(10月16日公開)
■第4回 アイデアは10分で出す、日本コカ・コーラの上司から学んだ仕事をスピーディに進めるための原則とは?(10月23日公開)
■第5回 日本コカ・コーラで学んだ、仕事の成否を大きく左右する「6つのステップ」とは?(10月30日公開)
■第6回 組織の機能を使い切るには? 四国コカ・コーラ ボトリングで気付いたシンプルな「組織営業」の基本(11月6日公開)

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