カーボンニュートラルとネイチャーポジティブの双方の観点から、生物資源を活用するバイオ産業も成長が見込まれる分野だ。具体的には、生産性の高い林業、持続可能な農林業で生産した生物を原料とするバイオマス燃料、生物由来の原料で生産した化学素材などがある。生物資源を活用して大気からの二酸化炭素を吸収する手法は最近「自然を軸としたソリューション(NbS;Nature-based Solutions)」と呼ばれており、世界的に注目度が高い。太陽光発電と風力発電についても、周辺の生態系を破壊しない手法の開発が切望されている。同時に廃棄された太陽光発電パネルや風力発電の再利用やリサイクルでも新規雇用需要が生まれる。これらにより2600万人の新規雇用創出が期待されている18

 最後の分野が、持続可能な資源サプライチェーンの管理だ。使用している資源が、再生素材なのか、あるいは持続可能な資源開発で採掘された素材なのかなどを適切に管理するために、RFIDタグ、ブロックチェーン、人工衛星モニタリング、デジタルパスポートなどの新たなデジタル技術の活用も始まっている。資源採掘や林業の分野には、中小零細企業も多いが、労働者搾取や児童労働といった違法行為に関与していることも少なくなく、こうした人権侵害を防ぐこともトレーサビリティの対象となる。こうした持続可能なサプライチェーンの分野だけでも300万人の新規雇用創出が想定されている19

ネイチャーポジティブ型まちづくりの秘訣は「ブラタモリ」に

 農林水産業、建設・インフラ業、製造業でネイチャーポジティブを実現していくための秘訣は、タモリ氏が司会を務めていたNHKの番組「ブラタモリ」にある。

「ブラタモリ」は、地質学や地理学の側面から地域資源を掘り下げ、街や名所、街道、特産品の成り立ちを紹介してきた。19世紀の産業革命がもたらした「工学アプローチ」では、各地に存在している自然環境の差異を人工的に均質化し、土地開発や製品の量産を効率よく実現することを追求してきた。しかしながら、自然環境の差異を均質化する過程で、生態系の破壊を引き起こしてきた。

 反対に、「ブラタモリ」は、人間社会がいかにして土地ごとの差異を尊重し、特徴ある街、名所、名産品を育んできたかを解き明かしてきた。これぞまさにネイチャーポジティブ型の経済と言える。「ブラタモリ」は残念ながら2024年3月に放送を終了してしまったが、「ブラタモリ」が紹介してきた人類の叡智は、これからの時代にこそ生きてくる。ぜひNHKには、ナレッジを継承する方法を考えていただきたいと思う。

18、19 前掲書

<連載ラインアップ>
第1回 各国政府や企業も注目する課題解決のための概念、「ウェディングケーキ・モデル」とは?
第2回 Off-JT投資額は主要国最低、日本企業は「21世紀の産業革命」をリードできるのか?
第3回 生態系破壊による経済損失は世界GDP過半の44兆ドル、影響が甚大な8業種とは?
第4回 アパレルブランド「パタゴニア」も注目する「リジェネラティブ農業」とは?
■第5回 雇用は700万人の純増、サーキュラーエコノミー化による業種・産業への影響とは?(本稿)
■第6回 経済損失は年12兆円、大企業や行政は「2025年の崖」問題にどう対処すべきか?(10月15日公開)

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