不確実な時代に成長を続ける企業の組織には、どんな特徴と強みがあるのか。グーグルで人材開発を担当した、人材育成、組織開発の専門家であるピョートル・フェリクス・グジバチ氏は、個人の価値観と経営の目的を一致させ、意欲的に働くチームを作り上げる重要性を説く。特に、チームの活性化にとって重要なことは、上司と部下の1対1の対話を重ねることにあるという。その真意を聞いた。
「目的のないチーム」では組織力は高まらず、成長もできない
――ピョートルさんは、「日本の組織はチームになっていない」と問題提起しています。どうしてそう思うのでしょうか。
ピョートル・フェリクス・グジバチ氏(以下・敬称略) 日本企業の伝統的組織は、最初に業務プロセスをこなすために作られ、人事異動で人を入れ替えながら運営されてきました。
この仕組みの何が問題かというと、組織に入ってきた人が、何のために仕事をしているのか明確でないことです。仮に、営業部門は売り上げなどの数字で目標設定ができても、間接部門では具体的な目標は立てにくいでしょう。しかし、売り上げは目的ではありません。全ての組織には存在意義、目的が必要です。
目的がなければ、社員は「とにかくやれ」と言われるままに仕事をすることになります。これを毎日繰り返していると、仕事に対する情熱や向上心はなくなり、ただ決められたことをこなすだけになってしまいます。よくある例えとして、レンガを積んでいる職人が、「俺はただレンガを積んでいるだけ」というのと、「後世に残す建築物を作っている」と答えるのでは、仕事の質にも大きな差が生まれるのは明らかです。
これは組織のマネジャーも同じです。私は多くの企業を回り、各社のマネジャーに「自分のチームはなぜ存在しているのか、目的は何かと」尋ねましたが、明確に答えてもらえないケースがほとんどでした。
一方、欧米企業や日本の外資系企業の組織は、組織の目的、ゴールを定めてから、それに必要な人材を集めてチームを作ります。目的なく存在している組織はありません。分かりやすくいうと、スポーツチームの作り方と同じです。
スポーツチームの目的は、突き詰めれば「試合に勝つ」ということです。チーム作りは、勝つために最適なメンバーを揃え、できるだけ短期間でチームに貢献できるような体制をつくっていきます。個々のプレーヤーの役割も明確で、それぞれの強みが生きるポジションでプレーすることが基本です。
なぜ日本の企業が組織ありきで動くようになったのか。これは、1950年代から1990年代ごろまでの社会の構造が、企業の長期雇用を前提にしていたことにあります。組織が継続していることが、結果として経済成長につながっていたため、まず組織を作り、そこに人を次々と送り込むだけで、企業は成長できたのです。
しかし、ただ仕事をすれば成長できた時代が終わった今、目的のない組織、チームで結果を出そうとしてもうまくいかなくなりました。当然の帰結です。