ビジネス書の名著・古典は多数存在するが、あなたは何冊読んだことがあるだろうか。本連載では、ビジネス書の目利きである荒木博行氏が、名著の「ツボ」を毎回イラストを交え紹介する。
連載第12回は、アメリカのビジネススクールで人気のテキストで、戦略論の金字塔と評されている『企業戦略論』(ジェイ・B・バーニー、ウィリアム・S・ヘスタリー著/岡田正大訳、ダイヤモンド社)を取り上げる。
それはなぜ「強み」と言えるのか?
突然だが、「あなたの会社の強みは何ですか?」と聞かれたら、何と答えるだろうか。
例えば、「わが社の強みは営業力だ」という言葉が浮かんだかもしれない。いや、それはひょっとしたら「研究開発力」だっただろうか。
ここまでは難しくない。しかし問題は次の質問だ。
「それはなぜ強みと言えるのですか?」
この質問に答えられるだろうか?
実はこの質問にしっかりと答えられる人はそれほど多くない。確かに営業は、競合と比較して強いのかもしれない。しかし、それは本当に「強み」になるのだろうか? そもそも「強み」とは何か…?
このような 「強み」という極めて抽象度の高い言葉の本質を具体的に教えてくれるのが、ジェイ・B・バーニーの『企業戦略論』(ダイヤモンド社)だ。
バーニーの『企業戦略論』という書籍は、数多く存在する戦略論の中でも非常に重要な位置を占めている。その中でも大きいのが、イギリスの経済学者デヴィッド・リカードのリカード経済学をルーツにした「リソースベーストビュー」というコンセプトだ。
リカード経済学の出発点は、所有する農地の肥沃さがもたらす経済的影響を解明しようというものだ。リソースベーストビューも、その企業が持つ代替不能な経営資源を手に入れることがどのような影響をもたらすのか、ということを考察の起点にし、企業が持つ内部リソースと能力に焦点を当てた理論である。
マイケル・ポーターが、「企業の外部」の業界分析を強調したことに対して、バーニーは「企業の内部」にこそ戦略の本質はあるという対極的なパラダイムを提示したのだ。
そして、そのリソースベーストビューを理解するための枠組みとして、バーニーは「VRIO」というフレームワークを提唱した。このVRIOこそが、「強み」を理解するためのフレームワークとなる。
VRIOが提示する4つの問い(Value, Rarity, Imitability, Organization)に順番に答えていくことで、自社の「強み」を読み解くことが可能になるのだ。