前田建設工業が、請負業中心の建設業から「総合インフラサービス企業」への転換を進めている。2021年には前田道路、前田製作所とともに共同持株会社のインフロニア・ホールディングスを設立。社会インフラへの投資および整備、運営などによって、社会が直面するさまざまな課題を解決するビジネスモデルへの移行を目指す。事業モデル転換の狙い、官民連携事業を中心とする総合インフラサービスの進め方などについて東山基常務に話を聞いた。
持株会社「インフロニア・ホールディングス」を設立
――最近になって、前田建設工業のインフラ運営などに関わる官民連携事業が注目されるようになっていますが、東山さんは早くからこの分野に携わって来られたそうですね。
東山基氏(以下敬称略) 私は大学院修了後の1989年に前田建設工業に入社し、主に土木工事の設計や施工に携わりました。1990年代の後半に建設省の外郭団体に出向し、PFI(Private Finance Initiative=民間資金や技術を活用した社会資本整備)の調査事業などに携わりました。
前田建設工業に戻ってからは総合企画部の所属になりました。当時、イギリスでは財政改革の一環としてPFI方式が導入されており、日本でも導入しようということで、建設業界を挙げて活動を行っていました。前田建設工業は当時、日本建設業団体連合会の会長職を務めていましたので、率先して取り組むことになりPFI推進室を設立し、私もそこに配属されました。
1999年には日本でもPFI法が制定されました。私はそれ以降、ほぼPFI、PPP(Public Private Partnership=官民パートナーシップ)の仕事をしてきています。その点では、四半世紀にわたり、官民連携事業に携わってきたことになります。
――2021年10月には、前田建設工業、前田道路、前田製作所による共同持株会社「インフロニア・ホールディングス(HD)」が設立されました。社名には「インフラのパイオニア、エンジニア」という意味が込められているそうですが、ホールディングス設立の狙いはどこにありますか。
東山 前田建設工業は1919年の創業以来、山岳土木から都市土木、建築、海外、リテール分野、インフラ運営へと事業領域を拡大してきました。中でも電力会社の水力発電所向け大規模ダムの建設では豊富な実績があり「ダムの前田」と称されるほどです。
ただ、成熟化が進む日本では、公共投資の大幅な拡大は見込めず、むしろ縮小傾向にあります。建設事業そのものが縮小することになれば、企業経営に大きな影響を及ぼします。海外を見ると、すでに欧州などでは、大手建設会社が従来の請負工事から、社会インフラの運営、維持管理などのビジネスに転換する例が多くみられます。
景気動向に左右されにくいことから、当社も選択肢の1つとしてインフラサービスの拡充を検討していましたが、折しも2011年施行の改正PFI法により、「コンセッション」(国や自治体がインフラを保有したまま運営権を民間に設定すること)が可能になりました。その第1弾として仙台空港でコンセッションが導入され、当社もコンソーシアム(複数の企業による共同体)の1社として事業に参加しました。以後も、さまざまな官民連携事業に参画しています。今後もインフラ運営のマーケットが広がると想定しており、土木・建築の請負に次ぐ第三の柱として成長させたいと考えています。