箱根駅伝での利用者は24人、32人、57人と増加
2022年元旦、METASPEED 発売後の初めての箱根駅伝に向けて、アシックスは新聞に全面広告を出した。
『わたしたちは、何度でも起き上がる。
2021年1月。レースから、アシックスのシューズが姿を消した。
たとえ何度負けようとも、わたしたちは前を向く。
前に進むことは、苦しいことの連続だ。
けれど、走ることと向き合うことを決して諦めない。
誰よりも真剣に、走りと向き合う。
負けっぱなしで終われるか。
BEAT YOUR BEST.
打ち破れ、自分の限界を。』
全面広告にはこのような挑戦的なメッセージが記された。
この言葉通り、2022年の箱根駅伝でのアシックスシューズ利用者は、前年の0人から24人(選手全体の11.4%)と復活の兆しを見せる。
竹村氏は言う。「箱根駅伝でアシックスのシューズを選んだ選手がゼロだったという数字は言い訳のしようがないものでした。だから、アスリートが勝てるシューズを作るという目標にゼロからまい進することができ、プロジェクトメンバー全員の気持ちが一つになり、シューズ開発に取り組めました」。
2022年の箱根駅伝後、新聞紙面には「シューズの反発力が自分に合っている。自然に推進力につながる」「長い距離を走っても後半にしっかり脚力を残せる」といったアスリートの声が掲載された。
これは前年、地方公務員ランナーとして有名だった川内優輝選手(あいおいニッセイ同和損保)が、アシックスの厚底シューズで8年ぶりに自己ベストを47秒も更新、2時間7分27秒でゴールした影響も大きかった。川内氏もレース後、「言いたくないけど、靴のおかげ」と感想を述べていた。
その後、箱根駅伝でのアシックス製シューズの利用者は、2023年が32人(選手全体の15.2%)、2024年が57人(同24.8%)と右肩上がり。2024年の57人という数字はナイキに次ぐ2位となった。
他にも、2024年には前田穂南選手(天満屋)が女子マラソンの日本最高記録をアシックスMETASPEEDで叩き出した。
走法に合わせて2種類のシューズを提供する作戦もアスリートの理解を得られ、アシックスの「勝つためのシューズ」はアスリートに浸透していっている。
METASPEEDの進化は続く。2024年の最新作では、アスリートからの「より軽く、より反発力を」という声に応え、靴底素材の上部にあたるミッドソールに新素材を導入しEDGEもSKYも重量は185g(27.0cmの場合)と約10%の軽量化を実現。反発力も約8%向上させた。

「シューズを使う人の頑張る姿を見ると頑張れる」
アシックスにとって、トップアスリート向けのシューズ開発はどのような意味を持つのだろうか。
竹村氏はメリットが多いと言う。「シューズ開発は新規構造と素材開発でもあります。高性能な構造と素材を見いだせれば、他のシューズにも活用できます。また、最近はマラソン大会の1、2、3位のシューズを並べた写真を大会参加者がインスタグラムにアップすることも増えました。そこにアシックスのシューズが入っていれば、当然ブランドイメージは向上しますし、市民ランナーの方に興味をもっていただくこともできます」。
だが、「常に勝てるシューズの開発のプレッシャーはものすごい」と竹村氏は語る。
それでも「アシックスのシューズを履いてレースに出ているアスリートを見ると、一緒にレースで走っているような感覚になります。彼らが勝利して表彰台に登れば本当にうれしいし、駄目だと本当に悔しくなります。2023ブタベスト世界陸上では、エチオピア代表のT.ゲタチュー選手がアシックスシューズを履いて挑戦してくれました。いい走りだったのですが、トップグループ入りは逃したので、本当に悔しく感じました。自分たちが作ったシューズを使っている人が頑張る姿を見ると自分もプレッシャーに負けずに頑張れます」と竹村氏は言う。