組織や部下が成長し続けるために、リーダーが果たすべき役割とは?本連載では、9年ぶりに日本代表ヘッドコーチとして再登板が決まったラグビーの名将、エディー・ジョーンズ氏の著書『LEADERSHIP リーダーシップ』(エディー・ジョーンズ著/東洋館出版社)から、内容の一部を抜粋・再編集。イングランド、オーストラリア代表ほか数々のチームを率い、ゴールドマン・サックス日本のアドバイザリーボードも務める同氏の、ビジネスにも通じるチームづくりやコーチングの極意に迫る。
第1回目は、本書の核であり、あらゆるチームや組織に役立つ「リーダーシップ・サイクル」と3つの「M」を紹介する。
<連載ラインアップ>
■第1回 ラグビー豪州代表元HC、エディー・ジョーンズ氏が語る「リーダーシップ」の極意(本稿)
■第2回 第2回 チームに一匹狼は必要か?ラグビー英国代表が重視した「3つの価値観」とは?
■第3回 名将エディー・ジョーンズは、五郎丸歩の心をどう開き、関係性を築いたか?
■第4回 不安やストレスから選手と自分を守るために、なぜルーティンが必要か?
■第5回 サッカーのイングランド代表チームから、ラグビーの名将が学んだこととは?
■第6回 ハイパフォーマンスの鍵を握る「リーダーシップ・サイクル」「3つのM」とは?
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プロローグ ベールの内側
本書は、極限のパフォーマンスを目指して日々努力を続ける組織の中において、通常は秘密のベールに包まれているリーダーシップについて書かれた本である。
ラグビーのイングランド代表チームのヘッドコーチとしての私の仕事をもとにして構成されてはいるが、スポーツやビジネス、教育、芸術、政治、メディアをはじめとする幅広い分野で、様々な課題や挑戦に取り組んでいるあらゆる組織に関わる人たちにぜひ読んでいただきたい。
本書は主にリーダーシップやコーチングに興味を持つ人のために書かれているが、私の関心や人間関係は、オーストラリアや南アフリカ、日本、イングランドのナショナルコーチを務めてきたラグビーコーチとしてのキャリアと同じくらい多岐にわたっている。
私はこれまでに4度のワールドカップでヘッドコーチやアドバイザーを務め、チームを3度決勝に導き、金メダルをひとつ手にした。また、アマチュアクラブのリーダーとしての仕事にも誇りを持っている。シドニーのランドウィック、スーパーラグビーのブランビーズ、日本のクラブラグビー、イングランドのプレミアシップ ―― 。
リーダーとしての私は、学校の教師や校長としての過去の経験と、息子、きょうだい、夫、父親として果たしてきた役割によっても形づくられている。家族も学校も、常に進化し、改善していくべきチームであり集団であることに変わりはない。
従って、これから本書で紹介していくアイデアや原則は、スポーツの世界に限定されるものではない。
また、私は東京のゴールドマン・サックスの日本アドバイザリーボードのメンバーを務め、柳井正(やないただし)氏(カジュアル衣料品を製造・販売する日本の企業ユニクロを、零細企業から現時点の時価総額45億ドルの世界的大企業に育て上げた企業家)をはじめとする刺激的な人々と接する機会があり、企業のリーダーから多くを学んでいるものの、本書の内容はビジネスの世界だけに当てはまるものでもない。
本書で論じるリーダーシップの戦略やテクニックは、スポーツやビジネスの世界をはじめとする、人生の幅広い領域で活用できるものだ。
これらの戦略やテクニックは、ラグビーというレンズを通して、過去と現在の様々なエピソードとともに語られる。それは私が25年間プロのコーチとして学んできた教訓を、印象的な方法で伝えるのに役立つだろう。
オーストラリア、南アフリカ、日本での体験についても詳しく触れているが、メインとなるのは現在のイングランドでの仕事についてだ。私はこの2年、2019年のワールドカップと、激動の2020-21年シーズンに集中してきたが、そこでとても大きな浮き沈みを体験した。
我々はワールドカップの決勝に進出し、続く欧州6ケ国対抗戦「シックスネイションズ」と「オータムネイションズカップ」〔訳註:新型コロナウイルスの影響を受けて2020年に臨時で開催された、シックスネイションズの6ケ国+招待国2ケ国の計8ケ国によるラグビーの国際大会〕で優勝した。しかし、リーダー陣を含むチームの内外で問題が生じた。その結果、2021年のシックスネイションズでは5戦3敗の5位に終わった。これは私や選手たちはもちろん、イングランド代表の熱烈なファンにとっても受け入れがたい結果だった。
しかし本書では、我々が経験した試練から目を背けたりはしない。こうした体験は、啓発的で有益な教訓を与えてくれる。
私に言わせれば、挫折や失敗をしたことがないとうそぶくコーチやリーダーは、単に経験が浅いだけだ。まだ学びが少なく、世の中に示せる教訓など持っていないにすぎない。私なら、逆境にさらされ、自らを省み、変革を起こし、以前よりも強く、逞(たくま)しい競争者となって苦境から蘇った人たちから学びたい。
本書には、世界中の一流コーチたちとの絶え間ない対話から私が得てきた学びも反映されている。
私は立場上、サー・アレックス・ファーガソンやアーセン・ベンゲル、ジョゼップ(ペップ)・グアルディオラ、ガレス・サウスゲートといったサッカー界のトップレベルのリーダーたちとリーダーシップについて語り合える機会に恵まれている。また、頻繁に開催されるコーチングフォーラムに参加して、世界中のコーチたちと親睦を深めることができるのも大きな特権だ。
私のイングランド代表のコーチとしての仕事が、NBAのゴールデンステート・ウォリアーズの73歳のアシスタントコーチ、ロン・アダムズとの対話に大きく触発されたものだと知って驚く読者もいるだろう。ロンはウォリアーズがNBAファイナルを制した3度のシーズンにおいて、ヘッドコーチのスティーブ・カーに重要な真実を伝え続けた。
私はまた、弱小大学ながらアメリカの大学バスケットボールで目覚ましい躍進を遂げたゴンザガ・ブルドッグスの驚異のサクセスストーリーを詳しく知ることによっても新たな着想を得た。私にとっては、毎日が何かに耳を傾けて新しいことを学ぶ機会だ。