元気な企業には、どのような特徴、戦略、そしてビジネスモデルがあるのか。本連載では、特徴的なビジネスモデルを作り上げた7つの優れた企業事例を船井総合研究所が分析した『このビジネスモデルがすごい! 2』(船井総合研究所著/あさ出版)より、内容の一部を抜粋・再編集して紹介。コロナ禍をはじめとする環境変化に、各企業がどう対応し、ピンチをチャンスに変えて成長したかをひも解く。
第4~5回目は、ゆるまないナットで知られる大阪府のメーカー、ハードロック工業の強さの秘密に迫る。
<連載ラインアップ>
■第1回 「焼肉きんぐ」「丸源ラーメン」の物語コーポレーションは、なぜ強いのか?
■第2回 真似できそうで真似できない、物語コーポレーションのこだわりとは?
■第3回 物語コーポレーションの「業態改善会議」では、何が議論されているのか?
■第4回 「ゆるまないナット」のハードロック工業がこだわる商品力に頼らない営業戦略(本稿)
■第5回 問い合わせ数が4倍に、ハードロック工業のデータ経営と営業DXの威力とは?
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「ハードロックナット」という独自商品の強みに加えて、ハードロック工業のビジネスモデルの特徴は、営業に力を入れていることだ。技術志向の会社だが、マーケティングも両立させているという稀有な実例といえる。
どんなに良い商品でも、売れるまでに最低2、3年はかかる、知ってもらわなければ売れることはない、という考えのもと、粘り強い営業活動を創業期から推し進めていた。
最初はトップ自らが営業にあたっていたが、大切にしていたのが、あくまでも「最終ユーザーの評価・ニーズ」を把握することだった。
ねじのような商品は、卸問屋がメーカーから仕入れたものを販売店に卸し、さらに販売店がエンドユーザーにルート販売を行う多段階での流通構造になっている。
背景にあるのは、ねじのような商品のメーカーは昔から中小零細企業が多く、かつ、ねじの種類が多いため、一社ですべてのタイプの商品を製造することができないことだ。そのため、大きな倉庫を持って、多種多様なねじを取り扱う便利屋的な卸問屋制度が生まれたといわれている。つまり、卸問屋に依存する体質の業界なのだ。
しかし、卸問屋が最終ユーザーの評価やニーズを把握しているとは限らない。実際、ゆるまないねじも「こんなものは売れない」と当初はけんもほろろの対応をされていた。しかし、ハードロック工業は、卸の先にある最終ユーザーにまで出向き、その目で評価を確かめてもらう取り組みを進めたのである。
とはいえ、挨拶に行ったところで、新しいものは使ってはもらえない。そのため、何度も会いに行く、とりあえず商品を使ってもらう、キーパーソンにつながる人を探るなど、あの手この手の粘り強い営業を繰り広げた。ここから、顧客が増えていったのだ。
自社の販売先が最終ユーザーとは限らない。多くの場合、販売先のその先、あるいはそのまた先に最終ユーザーがいる。そこにまで踏み込んで売り込んだのである。だが、その先、そのまた先まで営業することで、「実際に自社の商品を使ってくれている人が困っていること」がつかめた。これが、後の商品開発に活きた。
また、知名度を上げる努力も怠らなかった。中小企業は知名度がない。ほとんどのケースで、新しい顧客は自社のことを知らない。これは、営業上、とても不利になる。一から自社のことを説明しなければならないからだ。
そこで早くから新聞、専門誌、ラジオ、テレビ、インターネットに広告を出している。球場に看板を出したり、最寄り駅の電車内で「ゆるみ止めナットのハードロック工業へお越しの方は、次でお降りください」という案内広告を流したこともある。
中小企業こそ、広告などをフル活用して、知名度を上げる努力をしていかなければいけない、というのがハードロック工業の考え方。広告はコストではなく、投資なのである。そして知ってもらえればメディア露出も増える。これが、ますます知名度を高めてくれる。
それこそ、顧客に自社のことを覚えてもらうという意味では、「なんでもいいから他社にない特徴を作る」ことも意識していた。創業者の若林氏の趣味と実益を兼ねた鉄道模型はその象徴である。
広い会社内に鉄道のジオラマを作るだけでなく、人を乗せて走れる「ミニSL」まで作り、名物になった。これが取材につながったり、話題になったりして、ハードロック工業の知名度アップに貢献したのだ。「なんでもいいから他社にない特徴を作る」ことも、中小企業の営業には大きな意味を持つのである。