世界最高峰のエグゼクティブサーチファームといわれるエゴンゼンダー社で、5000人を超えるハイレベルな経営人材と接してきた「人」のプロフェッショナルである小野壮彦氏が、そのノウハウを体系化した書籍『経営×人材の超プロが教える 人を選ぶ技術』(フォレスト出版)から一部を抜粋・再編集してお届けしている本連載。
最終回となる本稿では、天才と称される起業家たちを突き動かす「ソース・オブ・エナジー(エネルギーの源)」の正体に迫る。「経験・知識・スキル」や「コンピテンシー」、「ポテンシャル」で評価することができるのは大企業の経営者までであり、新しい未来を生み出す天才起業家たちが共通して発する、何とも言えないあの感覚は何なのか。筆者は、その正体は「使命感」であり、「劣等感」だという。
<連載ラインアップ>
■第1回 人を構成する「4つの階層」を理解すれば、人を見る力は桁違いに向上する
■第2回 人の「ポテンシャル」を構成する4つの因子(今回)
■第3回 天才起業家たちを駆り立てる「エネルギーの源」の正体とは(今回)
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地下3階の「使命感」と「劣等感」が人を突き動かす
これまで述べてきた、地上1階から地下2階のポテンシャルに至るまでの流れは、エゴンゼンダーで学んだことを、できるだけわかりやすくアレンジを加えて提示してきたものだ。
大企業のトップマネジメントを評価するうえでは、ここまでで十分だったと思う。
しかし、不具合が発生したのだ。
前述のように、エゴンゼンダーを卒業し、ZOZOに勤めたのち、2019年よりぼくは、日本を代表する独立系ベンチャーキャピタルのグロービス・キャピタル・パートナーズ(GCP)に転じ、起業家を支援する仕事を担うことになった。
ここでは、数々の起業家にお会いし、事業成長に向けたメンタリングをしたり、ときには自身の自己変革のためのコーチングをしている。
だが、優れた起業家の特徴を理解するうえで、どうにもこれまでの地下2階までの理論では、説明がうまくいかないケースが体感的に増えてきたのだ。
ポテンシャルよりさらに深い世界。そこには何が広がっているのか。起業家たちを起業家たらしめるものとは何か。新しい未来を作る天才たちが共通して発する、何とも言えないあの感覚は何なのか。
■ 天才たちを駆り立てる「ソース・オブ・エナジー」の正体
謎(なぞ)のヴェールに包まれた、さらなる地階へと続く階段の扉を開け、さらに深い地下3階へと進んだ先に広がっていたのは、ぼくが提唱するコンセプト「ソース・オブ・エナジー(エネルギーの源泉)」である。
言い換えるとそれは、その人の精神性だ。
この「ソース・オブ・エナジー」とは何か。ヒリヒリするような頑張りを生む力。それは、「使命感」であり、また、「劣等感」だと考える(図15)。
「使命感」はエネルギーの源泉となり、各階層のそれぞれの因子の発達において、加速合成をもたらす。
例えば、医学の道を志す人の動機として散見されるのが「子どもの頃に家族を不治の病で失ったので、自分がいつかその病気を治したい」という使命感だ。あるいは、「若い頃に旅した発展途上国の子どもたちを何とかしてあげたい」と使命感に燃える実業家の話も聞く。
それらは後天的かもしれないが、先天的なケースもある。ギフテッドと呼ばれる圧倒的な頭脳の持ち主たちだ。彼ら、彼女たちと会うと、物心がついたときから、「この能力は世のため人のために使うべきじゃないか」という使命感に駆り立てられていることに気付く。このように使命感は、ちょっとやそっとのことでは揺るがない強固な精神性を、その人物に授ける働きがある。
では、「劣等感」とは何か。
通常、劣等感というものは、ネガティブな意味で使われているだろう。しかしぼくは、人の成長という観点において、劣等感も使命感と同じく、その人の人生の発展にプラスに働く、ポジティブなものだと考えている。この点は強く主張したい。
それは、劣等感が「ソース・オブ・エナジー」として確率変動を生み出していたとしか考えられない経営者を、ぼく自身が数多く見てきたからだ。