企業を成長させるには、人材の獲得と育成が必須なのは言うまでもない。だが、働き手の不足、スキルのミスマッチや個人の意識変化など、人的資本を最大限に活用することには課題が山積している。ソフトバンクでは、未来を見据えたビジョンと数々の具体的施策で、「自律する社員」の育成を進めている。同社でコーポレート統括 人事本部 本部長を務める源田泰之氏が、人事戦略の詳細を語る。

※本コンテンツは、2023年11月21日(月)に開催されたJBpress /JDIR主催「第2回 人・組織・働き方イノベーションフォーラム」の特別講演2「人的資本最大化を実現するためのソフトバンクの人材戦略」の内容を採録したものです。

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会社と個人の関係は大きく変化している

 源田氏は「人的資本の最大化を考える際、これから起こる未来を想像することが非常に大切です」と語る。

 未来には何が起こるのか。まず考えられるのは、テクノロジーの進化の加速や自然資源の枯渇、超高齢化社会の到来などである。また、こうした流れの中で、若い世代の働くことに対する価値観が変化してきていることも見落とせない。

 そのため日本政府も、「骨太の方針」の中で、人的資本投資による付加価値向上の重要性を示している。その背景には、2000年代から問題視されてきた生産性の低下、変化への対応力の低下などが進行し、長年続いた日本型雇用が限界を迎えていることがある。

 企業は対策として、シニアや女性が活躍できる環境づくりに乗り出した。そして、2020年からのコロナ禍により、働く環境の構造的変化が半ば強制的に訪れた。

「この変化の中で、ソフトバンクとしては社員一人ひとりの潜在的な能力を最大化し、社員を成長させることこそが、会社の持続的な成長につながると考えています」

 だが、環境だけでなく、個人の価値観も変化し、会社と個人の関係性に大きな変化が訪れていることも認識しなければいけない。 これまでの人事部門は「ヒューマンリソース」という言葉のとおり、個人を管理することに力を入れてきた。それが今は、会社と個人は互いに選び、選ばれる関係になっている。

 源田氏は、個人には自律型のキャリアが求められていると語る。「自分自身がどんなキャリアを思い描いて、どう成長していくのか。この社員のニーズに応えるため、会社はより透明性を増して、社会から選ばれる存在にならなければいけないのです」

 同社の人事の方向性も、変わってきている。これまでは人的資源の管理が中心だった業務が、人的資本の最大化として社員の成長を重視する方向に変わってきた。「社員の成長により会社が成長し、それにより、さらに社員に成長の機会を与え、より成長していくというサイクルを回していきたいと思っています」(源田氏)

 また人事の情報発信は、従来は社内向けに限られていたが、これからは積極的に社外にも発信していくべきだと考えている。キャリアについても、会社に依存するのではなく、社員が自律的にやりたいことを考えて成長できる環境をつくる必要があると源田氏は語る。「個と組織の関係としては、会社が社員を囲い込むのでなく、フラットな関係になっていく必要があります。そして、多様な働き方や考えの社員が尊重されるダイバーシティ&インクルージョンの実現が、非常に重要になってきます」