近年、市場環境が変化し厳しさを増す中、営業プロセスを“改革”する必要性が増している。にもかかわらず、改革への取り組みの進捗は企業によってまちまちだ。大手企業を中心にマーケティングや営業変革のコンサルティングを行うNexalの上島千鶴氏は、成果を上げている企業とそうでない企業との間にできた差について、「周回遅れどころか4~5周遅れ」と実態を語る。それほどの差が開く、営業プロセス改革の成否の分かれ目はどこにあるのか。上島氏に聞いた。
改革が進まない大きな要因は「上層部の危機意識の低さ」
――近年、企業の営業プロセスを改革する必要性が高まっています。
上島千鶴(以下敬称略) 就業人口が減少している中、営業を増やせば売上があがるといった、人海戦術の限界は見えています。理想は、営業プロセスや仕組み、それに付随する組織体制を見直した上で成長戦略を描くことです。
例えば最近、優れた経営モデルを展開する企業として、キーエンスの名前を耳にする機会が増えています。同社の最大の特長は、営業人員一人当たりの売上を伸ばすことに成功している点と言えます。キーエンスが頻繁に話題に上がるのは、多くの企業が目指す姿がそこにあるからでしょう。
――現実を踏まえ、多くの企業で営業プロセス改革が進められているのでしょうか。
上島 事例として表には出ませんが、いち早く改革を進めている企業は多数あります。その一方で、出遅れている企業も少なくありません。
出遅れている企業にありがちなのは、現場が課題や仕組み化の必要性を理解しているのに、ボトムアップでの改革が進まないケースです。話を聞いていくと、上層部の中に「売上を上げるには追加の人員を投入するのが有効」といった、バブル時代の方程式をいまだに引きずっているような人がいたりする。足を引っ張っているのは、短期しか見ていない上層部の危機意識の低さであることが多いと実感じます。
私は、営業現場からの依頼で、役員や部長職を対象に営業プロセス改革の社内勉強会を行うことがあります。その会の真の目的は単なる勉強会ではなく、「上層部の危機意識の醸成」であったりします。「いままでの営業プロセスや売り方では、商談にすらたどり着けない」 「生産性を高める仕組みを作らなければ成長できない」という課題感や危機意識を持ってもらうことにあります。現場からは、「茹で蛙役員や、井の中の蛙部長を目覚めさせてほしい」といった要望がくるのです。
――現場はそれほど改革の必要性を感じているのですね。
上島 就業人口が増えないことに加え、現場がより強く実感している課題があります。近年は、商材の多売化や販売・流通チャネルの多様化が進み、営業の業務負荷が高まっています。小口取引や低価格帯の商材など、規模が小さい案件に多くの営業人材が関わる非効率さのほか、大型取引であっても過去の商習慣やプロセスが時間的なムダを発生させることも課題になっています。
また、コロナ禍でオンライン化が進み、いままで訪問対面型で成長してきた企業は、過去の勝ちパターンが通用しなくなってきています。こうしたさまざまな課題があり、時代に合わせた新しい営業プロセスや体制を再構築する必要性に迫られているのです。
繰り返しになりますが、すでに取り組んでいる企業は数多くあります。いまから重い腰を上げる企業は、周回遅れどころか4〜5周遅れているという意識を持たなければなりません。とはいえ、改革に失敗はつきものです。慌てて改革に乗り出し、進め方を間違え、大きな失敗をしてしまっては元も子もありません。