「売れる営業」に必要なものとは何だろうか? もちろん営業パーソンの人柄や顧客との相性なども要素として考えられるが、自社の商品やサービスを売るためには、顧客の気持ちを捉えるための戦略や原則が欠かせない。本稿では、『シン・営業力』の著者であり、FAプロダクツ代表取締役会長の天野眞也氏に、営業に必要なエッセンスと強い営業組織をつくる秘訣を聞いた。
※本コンテンツは、2022年12月15日(木)に開催されたJBpress/Japan Innovation Review主催「第7回 マーケティング&セールスイノベーションフォーラム」の基調講演「『シン・営業力』著者が解説!勝ち抜く『シン・営業組織』とは」の内容を採録したものです。
営業の3つの大原則と、それを可能にする「シン・営業力」とは?
企業にとって、営業力は売り上げに直結する生命線である。キーエンスのトップセールスマンとして活躍した経験を持ち、現在はFAプロダクツ代表取締役会長を務める天野氏は、営業には3つの大原則があると話す。
1つ目は、商談先の企業としてのメリットだけでなく、商談相手の個人としてのメリットも考慮するという点だ。相手先の担当者は、企業の一員である前に1人の個人だ。したがって、担当者が日々の業務の中で何を重視しているかを探ることが大切だという。それは出世だったり、社内で信頼されることだったり、あるいは業務に限らずワーク・ライフ・バランスの充実を目指すことだったりするだろう。こうした個人のメリットを押さえ、担当者のニーズに応えることが営業では求められる。
2つ目は、企業が何かを購入する場合、それは投資であると理解することだ。例えば、商品Aが2万円、商品Bが3万円であるとする。購入を検討する側としては、費用は抑えられるに越したことはないため、価格の情報しかなければAを選ぶ。ところが、Aを購入することにより得られる利益が4万円、Bを購入することで得られる利益が9万円になるという情報まで伝われば、間違いなくBを選ぶはずだ。
もちろん、実際はこれほど単純な話ではないが、この例のように「投資対効果」という視点を提案に盛り込むことで、単に販売価格だけで可否を判断されなくなる。商品を購入した結果、どのような成果が得られるかを相手に分かりやすく伝えることで、価格競争から逃れることができるのだ。
そして3つ目は、「不戦敗」をなくすために、顧客の欲しいものやタイミングを逃さないことだ。営業では、顧客との接触が途絶えている間に他社がアプローチして、すでに契約が成立してしまっている状態、すなわち不戦敗が全体の8割程度を占めるという。したがって、顧客のニーズが発生するタイミングや何を求めているかを常に察知し、適切な時期に適切な提案をすることが重要だ。
以上3点の営業の大原則を総括し、天野氏は、「シン・営業力とは、お客さまの欲しがるもの・タイミングを熟知し、お客さま個人のメリットを押さえつつ、『投資』という視点でご提案ができるお客さまを中心にした営業」だと定義する。
「営業のシーンでは営業パーソンがどのようにお客さまに商品を売るか、といった観点で考えがちですが、主人公はあくまでお客さまなのです」