パンデミックという脅威で、従来の業務形態や考え方に打撃や影響を受けた営業パーソンは多い。直近では、欧州の争いからグローバル化も永遠でないことが判明した。変化は今まで少しずつ起きていたが、もう今までのやり方では耐えきれない、大きく変える時が来たと言える。今回は、営業はセールスではなく、ビジネスそのものを作る、新たな価値を創造するビジネスメイキングという視点から、コアを担う営業リーダーの在り方を見つめ直す。必要なのは顧客の共感だ。それを得られる今一番の方法を探る。
社会の変化を俯瞰すると、見えたのは「需要の成熟」と「顧客優先」
――社会は変わったと言われますが、俯瞰で見て、変化をどう理解すれば良いでしょうか。
北澤孝太郎氏(以下敬称略) 経済に一番影響を与えるのは人口です。平成の終わりから令和にかけて人口の増加が頭打ちになり経済は成熟期に入りました。それまでは営業も、高度成長期のやり方でした。徹底的に売るために効率的な分業体制を敷き、工場が優位な立場で物を作り、営業はセールスとなり汗をかいて物を売っていました。しかし市場が成熟しお客様が多様化してくると、分業よりも顧客接点に全員が集中する方が効率的になり、全員でビジネスメイキングをするという考え方が非常に重要になりました。
さらに高度成長期が右肩上がりだったとすれば、当時はみんなと一緒で良かった、普通で良かったのです。しかし今は放っておくと右肩下がり。だから前と同様に普通にみんなと一緒でいると下がってしまいます。つまり「普通はリスク」になってしまいました。
そしてインターネットの普及で、以前は会社や営業側が情報を握っていたのに、今やお客様も簡単に情報を手にできる。今や完全に、商品の選択権はお客様に渡り、お客様が優位になりました。そうなると会社としては、CX(顧客体験)と呼ばれる部分に重点を置いて、お客様から好印象を得る、お客様を成功に導くといった対応が必要になります。働き方も同じです。今は会社の処遇や働き方などが、ネットですぐにわかりますから職場選びも働く側の権利になります。会社は、やりがいとかキャリアアップへの配慮が必要になりました。
ITの考え方も変わりました。以前、日本企業の7割ぐらいはシステム構築をアウトソースしてしまいました。その結果、社内にITを動かせる人がいなくなりました。最近はクラウド利用が普通です。クラウドを使えばサーバー費用などはとても安くできる。これからは情報システムがクラウドを活用するなどが期待されます。ITというのは基本、内製です。これはぜひ理解しておいてほしいと思います。
まとめると、高度成長モデルの終焉で「普通」はリスクになった、インターネットの定着でビジネスの主導はお客様側に移った、ビジネスを効率化できるデジタルは内製が基本、これら三つが大きな変化と言えます。
――そこにコロナ禍の影響が加わったということでしょうか。
北澤 そうです。コロナ禍は、後戻りできないほどの変化を起こしました。こうした生命の根幹に関わるような事象が発生したとき、自分たちの会社は本来何をすべき会社なのか、どんな存在意義があるのかといった会社の根幹を、会社自らが説明しきれない状況が続きました。だからみんなが腹落ちできない。自分の気持ちをなかなか一生懸命にできない。こういうモヤモヤした状況が日本の会社の中で起こっているのではと私は拝察しております。
――こうした状況は、営業にどんな影響を与えたのでしょうか。
北澤 端的にオンライン営業にならざるを得なくなり、MA(マーケティングオートメーション)やSFA(セールスフォースオートメーション)などが台頭しました。
会えないわけですから、もっと効率良くやろう、効率化を徹底しようとなる。しかしこれはパターン化につながります。顧客との関係構築を目指さずに、自社の商品やサービスだけを案内する、興味を持ってくれたお客様の数だけ増やし自動化された商談プロセスに載せる。無機質なセールスが加速してしまいます。これはビジネスメイキングとは全く逆の方向です。残念ながら、営業の本質を教えられる上司が減ってきている。パターン化や効率に力点を置かざるを得ない営業部隊が多い気がします。
生産性至上主義はかえって生産性を落とすといういい例だと思います。こうしたアプローチだけでは、新たな価値を創造するビジネスメイキングにはつながりません。では、私たちはどうしたらいいのでしょう?