マーケティング部門をつくり、MA(マーケティングオートメーション)を導入し、熱心にマーケティングに取り組んでいるにもかかわらず、多くの日本企業が新製品開発や新規市場の開拓において、売り上げという最重要の成果を出せていない。30年以上にわたり各業種のBtoBマーケティングプロジェクトを手掛けてきたシンフォニーマーケティング代表取締役の庭山一郎氏は、マーケティング部門を確実な成果に結びつける方法について、事例を交え解説する。
※本コンテンツは、2022年12月15日(木) に開催されたJBpress/Japan Innovation Review主催「第7回 Marketing&Sales Innovation Forum」の特別講演2「全社戦略でこそ成果が出せるB2Bマーケティングと横軸組織」の内容を採録したものです。
部分最適で横につながっていない日本企業のBtoBマーケティング
日本企業、特にエンタープライズ企業と呼ばれる大企業のBtoBマーケティングは、先進国の同業種・同規模の会社から見て周回遅れの状況だと、シンフォニーマーケティング代表取締役の庭山一郎氏は危機感を強めている。
「例えばプラントや工作機械、半導体デバイス、モーター、樹脂といった商材を扱うような大企業のマーケティングが非常に遅れているのです。日本経済を支えているこれらの企業のマーケティングこそ、強化しなくてはいけません」
庭山氏は、これらの大企業では既存の製品・サービスの売り上げは悪くないものの、新製品・サービスの売り上げや新規事業の立ち上げ、新市場の開拓などがうまくいっていないことが多いと指摘し、その原因は「マーケティング組織が機能していないことにある」という。
庭山氏によれば、MA 、SFA(営業支援システム)、CRM(顧客管理システム)などのMarTech (マーテック)*に投資しても一向に成果が出ず、またその理由も分かっていない企業が国内だけで数万社にのぼる。
*MarketingとTechnologyを組み合わせた造語。マーケティングやセールスで活用するシステムの総称。
また展示会への出展、ウェブやオウンドメディアへの取り組み、メルマガ配信など、日本企業の定番であるマーケティングも、投資に見合う成果に結びついていない。庭山氏はその理由について、さまざまな施策が「部分最適」となり、相乗効果を生みにくいためであるという。展示会担当者にとっては出展それ自体が、またウェブ担当者にとってはウェブサイトの運営が目的になっていて、その先まで見据えて活動している例は少ないと庭山氏は指摘する。
「BtoBマーケティングは施策から受注までを可視化できるだけに、本来『全体最適』で設計・実施すべきです。その施策が何件の商談をつくり、そこから何件が有望案件になり、売り上げに貢献したか、モニタリングできる必要があります。にもかかわらず、日本企業のマーケティングが部分最適にとどまっている原因は、『全社横軸』として機能するマーケティング組織の不在です」
そう語る庭山氏は、その解決策として、経営学者Igor Ansoff(イゴール・アンゾフ)氏の「3Sモデル」を紹介する。
「アンゾフ博士は『何かを解決したければ、まず戦略を立てなさい。戦略が立ったら、それを実現するのに十分なスキルを持つ人材を、十分な人数そろえた組織をつくりなさい。戦略が立ち、組織ができれば、それらが要件定義となって、正しいシステムを選ぶことができます』と語っています。日本企業も、まずは戦略を立てる必要があります」