そう、2018年のCESは、人間が主役で内燃機関の自動車を操る時代から、AIやIoTが主役となって自動運転の電気自動車をスマートに動かす時代に本格的にシフトを開始したことを示す象徴的なイベントであった。

 そのなかで、BMWは自動運転や電動化への流れとはあえて距離を置き、「リアルの代表選手」としてアナログなドリフト体験にこだわり、デジタルでは到達できない、エモーショナルな「究極のドライビング体験」を実践してみせたのである。BMWは「やんちゃだが、ブランドの主張に筋を通す存在」と世界中から訪れた多くの来場者には映ったはずだ。

CES 2018のBMWブースでのイベント「THE ULTIMATE DRIVING EXPERIENCE」は、モノレール駅の直下ということもあり、多くのギャラリーを釘付けにした(筆者撮影)

サステナビリティ戦略とデジタル化を推進したツィプセ氏

 BMWの生産部門を管掌していたオリバー・ツィプセ氏は2019年8月に(健康不安があった)ハラルド・クルーガー氏の後任としてBMW AG監査役会から指名され、BMW AG会長に就任した。1991年に研修生としてBMWに入社し、その後は英国・オックスフォード工場の工場長のほか、経営企画および製品戦略担当の上級副社長など管理職を歴任している。

 事業とサステナビリティの両立が求められ、経営の舵取りが難しい時代。クルマづくりの現場とプロダクトマーケティングの両方に精通している人物と評価され、表舞台に登場したのがツィプセ氏なのである。

 ファンとして、そして長年のBMWユーザーの一人として、著者がツィプセ傘下の最近のBMWを「観察」してきて感じた変化とは、サステナビリティ(SX)やデジタル化の推進(DX)という喫緊の経営課題に対して、過去の否定を恐れることなく、一瀉千里に突き進むことで解決を図ろうとする、そのスピード感だ。

 まず、サステナビリティについては、BMWグループは「エネルギー要件からサプライチェーン、生産・使用・処理リサイクルに至るまで、2050年までに完全なカーボンニュートラルの達成を目指すこと」をコミットしている。

 サーキュラーエコノミーを実現するためにツィプセ氏が打ち出した明確なポリシーが「4つのRE:」、すなわち「RE:THINK」(製造プロセスの再考)、「RE:DUCE」(エネルギーや材料の削減)、「RE:USE」(材料やコンポーネントの再利用)、「RE:CYCLE」(材料のリサイクル)だ。

 具体的な取り組みとしては以下の通りである。

 現在、世界中にあるBMWグループの工場で使用されるエネルギーは100%グリーン電力で賄われているだけでなく、サプライチェーン内の循環も常に厳しくチェックされている。また生産車1台あたりのエネルギー消費量は2006年以降55%削減されているだけでなく、2030年までにはCO2排出量を40%削減することになっているという。

 そして、この高い目標達成のためには革新的なバッテリー駆動車を全クラスで提供することが不可欠になる。2025年までには全BMW車の25%が電気モデルになり、2030年までにはその割合が50%になる。

 同時にBMWグループでのリサイクル材料の使用率を現在の30%から50%にまで高めることを目標としている(現在でもBMWグループの車に使われている部品は、ラグジュアリーを兼ね備えながら95%がリサイクル可能とBMWは説明している)。