CES 2018のBMWブースでの「THE ULTIMATE DRIVING EXPERIENCE」(究極のドライビング体験)のイベント会場(筆者撮影)

(朝岡 崇史:ディライトデザイン代表取締役、法政大学大学院客員教授)

 世界最大規模の民生技術のイベント「CES」(シー・イー・エス)。主催するCTA(全米民生技術協会)は、さる10月13日にBMW AG取締役会会長のオリバー・ツィプセ氏がCES 2023(2023年1月5~8日、ラスベガスで開催)の基調講演に登壇すると発表した。

 自動車会社の経営トップがCESの基調講演に登壇して近未来のビジョンを語ること自体は特段珍しいことではない(フォード、GMは歴代の経営トップがたびたび登壇している)。特に過去5年間ほどで、ここCESでもスマートシティ、自動運転、電気自動車(EV)が注目すべき民生技術であるというポジショニングが確立した。CES 2023では300社近い自動車関連企業の出展がラスベガス・コンベンション・センターのウェストホール(CESのイベント会場の4分の1を占める)を埋め尽くすという。

 基調講演は開幕日前日の夜、2023年1月4日の午後8時から、パーム・ホテル&リゾーツのパールシアターで行われる予定だ。BMWが、基調講演のメイン会場として定番となっているベネチアンホテル5階のパラツァオ・ボールルームをあえて避けたのは、(フォード、GMとは格上の)プレミアムブランドとしての矜持だろうか。

 CTAのプレスリリースによるとツィプセ氏は「未来のモビリティがリアルとバーチャルの世界をいかに融合するか」「BMWの『究極のデジタル・ドライビング・マシーン』というビジョンがどんなものなのか」についてプレゼンテーションを行うという。

 今回、非常に興味深いのは、BMWの基調講演のテーマがデジタルやメタバースに軸足を置いていることだ。

「リアルの代表選手」としてCESで存在感を示してきたBMW

 著者はここ10年くらい、毎年、CESに通ってテックの最前線の「定点観測」を続けている。CESにおけるBMWの貢献は大きい。

 BMWは毎年、CESのメイン会場であるラスベガス・コンベンション・センター前の駐車場に目立つブースを構え、広い駐車スペースを即席のサーキットに見立てて、最新のBMWを使った試乗イベントを行ってきた。

 特に印象的だったのはCES 2018の「THE ULTIMATE DRIVING EXPERIENCE」(究極のドライビング体験)(注)と銘打って行われたリアルイベントである。甲高いエクゾーストノート(エンジンの排気音)、身体をシートに押し付けられる強力なG(重力加速度)。プロのドライバーによる運転により超高速かつ本格的なドリフト走行を体験できるというもので、時間的にはわずか数分間だったが(待ち時間は1時間以上)、BMWが標榜する「駆けぬける歓び」を十二分に堪能できた。

(注)BMWのブランドスローガンは「駆けぬける歓び」(Sheer Driving Pleasure)だが、米国だけは「THE ULTIMATE DRIVING MACHINE」(究極のドライビングマシン)が使用されてきた。

 CES 2018といえば、ゲーム用GPU(画像チップ)メーカー、エヌビディアのCEOジェンスン・ファンが世界初の自動運転専用プロセッサ「Drive Xavier」(ドライブ・エクゼビア)を手に颯爽と会場に乗り込んだり、トヨタの豊田章男社長が記者会見にサプライズ登壇、カーカンパニーからモビリティカンパニーへの「なりわい革新」を高らかに宣言して、電動の自動運転車のコンセプトモデル「e-Palette」をお披露目したりした激動の年にあたる。