「CES 2022」でのパナソニックの展示ブース。スペースを大幅に縮小し、製品展示を一切取りやめて人手のかからないプロジェションマッピングのデモのみの展開とした(筆者撮影)

(朝岡 崇史:ディライトデザイン代表取締役、法政大学大学院客員教授)

 2年ぶりに米国・ラスべガスでリアル(in-person)イベントとして開催された「CES 2022」のレポートを3回にわたってお届けしている。前回は3社の代表による基調講演をレポートした。今回は記者会見と展示の内容を見ていこう。筆者がリアルで出席、またはストリーミングで視聴した主な記者会見は以下の図の通りである。

 前回の記事で基調講演の成功には以下の3つの法則があることを述べた。

(1)企業主語ではなく、お客さまや社会全体への深い共感と理解が課題意識のスタートラインになっている。

(2)企業の業績の向上と、環境・社会の持続可能性を共に両立できるサステナビリティの考え方を提示できている(その考え方はパーパス、ミッション、フィロソフィという呼び方でシンプル&わかりやすいメッセージになっている)。

(3)話の順序が「WHY」→「HOW」→「WHAT」の順番、いわゆる「ゴールデンサークル理論」(注1)に則って語られている(上の1と2は「WHY」に相当する)。

(注1)「ゴールデンサークル理論」とは2009年のTEDでサイモン・シネックによって提唱された考え方。優れた企業や人物は「WHAT」や「HOW」ではなく、常に「WHY」から考え行動に移す。そして周囲の人々はこの「WHY」に惹かれて、物を購入したり、賛同したりする、という主張。

 基調講演の成功の法則は記者会見でも当てはまる。3つの法則をきちんと踏まえて印象に残るプレゼンを行ったのは、ジョンディア、キヤノン、ソニーの3社だ。対照的にインテルとクアルコムの半導体勢は45分という制限時間をいっぱいに使って、製品発表に徹し切った印象が強かった。

 ジョンディア、キヤノン、ソニーとインテル、クアルコムの5社についてその内容を簡潔に紹介する。

記者会見:高いクオリティだったジョンディア、キヤノン、ソニー

 1937年創業、世界最大の農業機械メーカーのジョンディアは今回CES初出展である。気候変動や世界的な人口増による食糧不足、農業に従事する労働力不足という社会課題に向き合い、農業をサステナブルな産業にすることを自社が向き合うべき社会課題(パーパス)と捉えている。課題解決のキーとなるソリューションが今年(2022年)後半に発売を開始する自動運転トラクターである。

 自動運転トラクターには、6つのステレオカメラと360度の障害物検知、AI機械学習などにより誤差1インチ以内を実現、写真のように農薬の散布機には雑草を検知するセンサーも内蔵されていて農薬散布量も減らすことができる。

 プレゼンテーションを聴きながら、業種こそ違うものの、ジョンディアの取り組みは日本のコマツが提供するスマートコンストラクション(IoTを活用した工事現場の自動オペレーション)に似ていると感じた。ジョンディアの自動運転トラクターは自社の「なりわい」やビジネスモデルを大きく変える可能性を持った戦略商品となるに違いない。

農業機械メーカーのジョンディアは長い歴史の中で農業従事者に寄り添い続けてきたという自負がある。自動運転トラクターは社会・地球・自社のWin-Win-Winを実現する(出所:digital.ces.tech)