CES 2021の「CESアンカーデスク」(ニュース番組仕立ての演出によるイベント紹介)内で紹介された動画から。CES 2021のリアル開催中止は地元ラスベガス経済にとっても大打撃だった。

(朝岡 崇史:ディライトデザイン 代表取締役、法政大学 大学院 客員教授)

 コロナ禍で、史上初めて完全デジタル方式で実施された今年の「CES 2021」。来年の年明け早々に開催されるCES 2022は2年ぶりに米ラスベガスでのリアル開催が復活する。

(参考)「リアル開催の流れに回帰しつつある海外のテックイベント」(『JDIR』2021年5月5日)

 今年の4月末には、主催者である全米家電協会(以下、CTA)から、

(1)CES 2022のイベント会期が2022年1月5~8日であること(注)
(2)4月末の時点で1000社以上の企業がリアル出展をコミットしており、アマゾンやクアルコムなどCES 2021の出展を見合わせた企業も復帰すること
(3)スタートアップ企業を集めた「ユーレカパーク」(Eureka Park)も復活すること
(4)デジタル方式での開催も並行して行われること

などがアナウンスされた。

(注)プレス限定のメディアデーは従来よりも1日長くなって1月3~4日の2日間に行われる。

 9月15日になってプレス向けの先行登録の受付がスタートしたほか、CTAからも基調講演や出展内容・出展企業に関するプレスリリースが次々にネット配信されている。

 今回は開催まであと3カ月弱と迫ったCES 2022について、基調講演、注目の展示、カンファレンスにフォーカスして見どころをご紹介したい。

基調講演はGM、T-Mobile、米アボットの3社が決定

 毎年、ベネチアンホテルの舞踏場(ボールルーム)で行われ、開催前の長い行列が風物詩となっている基調講演。CES 2022では登壇者に、ゼネラルモーターズ(GM)の議長兼最高責任者(CEO)のメアリー・バーラ、T-Mobileの最高責任者(CEO)のマイク・シーベルト、そして医薬品・医療器具メーカー、米アボットの社長兼最高責任者(CEO)のロバート・フォードの3名がすでに決定している。

CES開催初日の早朝、基調講演が行われるベネチアンホテルの舞踏場(ボールルーム)へと向かう行列。手前の看板に「席取り禁止」の注意書きが見える。CES 2020にて(筆者撮影)

 10月上旬の現時点で基調講演の詳細なスケジュールについての発表はないが、例年だとイベント会期初日の午前9時から行われるプレゼンテーションがその年のハイライトという位置付けである。昨年は自動車業界から久々の登壇となり(2010年のフォード以来だ)、EVシフトを高らかに宣言したゼネラルモーターズのメアリー・バーラCEOがその役回りであった。果たして今年はどうなるのだろうか?

 CESの主催者CTAのゲイリー・シャピロ社長兼最高責任者(CEO)はプロデューサーとしての手腕も高い。CES 2017のアンダーアーマーのケビン・プランクCEO、CES 2020のデルタ航空の最高経営責任者(CEO)のエド・バスティアンのように、これまでCESの大舞台とは縁遠かった「テック企業以外の」著名な経営者を口説き落として会期初日の朝の基調講演に登壇させてきた。「業界初」の触れ込みで戦略的に話題作りを行うというのが、ゲイリー・シャピロ流の手口だ。

 その文脈から推測すると、CES 2022は“ヘルスケア業界初”の登壇となるアボットのロバート・フォードCEOがその大役を務める可能性が極めて高いと予想する。

 アボットは日本ではそれほど知名度は高くないが、1880年にシカゴの薬局経営者 ウォレス・C・アボット博士によって創業された伝統ある大企業である。世界160カ国でビジネスを展開し、合計10万9000人もの従業員を抱えている。

 またアボットは特に糖尿病ケアの領域で評価と業績を残している。「ヘルステック」への取り組みにも熱心で、糖尿病患者が上腕部に貼ったセンサー(最長14日間使用可能)をスマホのアプリを使って1秒スキャンするだけで血糖変動を把握できる「FreeStyle リブレLink」と呼ばれるサービスを日本でも今年2月から提供開始している。「FreeStyle リブレLink」のように最先端のデジタル技術を活用したヘルスケアの未来に関するアボットのビジョンを示すことがロバート・フォード CEOの基調講演の主題となると推察される。

(参考)「アボット、スマートフォンのアプリをかざすことで日常の糖尿病管理に用いることのできる日本初めてのアプリ『FreeStyle リブレLink』の提供を開始」(アボットジャパンのプレスリリース)

(編集部注)その後、CESの主催団体であるCTAからプレスリリースがあり、11月15日現在で基調講演のスケジュールは以下のようになっている。
・1月4日 18:30~19:30 サムスン
・1月5日 9:00~10:00 ゼネラルモーターズ(GM)
・1月5日 14:00~15:00 T-Mobile
・1月6日 9:00~10:00 アボット

「スペーステック」「フードテック」を新カテゴリーとして導入

 長い期間、CESに通い続けて「定点観測」を続けていると、ひとつ大きな気づきがある。

 2010年代の前半までは、大画面テレビの時代からスマートフォンの時代へと主にデジタル機器がCESの主役の座を占めていた。しかし、2010年代の半ば以降、データの時代に突入し、AIやIoTが基幹技術として定着すると、自動運転に加えて、スマート◯◯や△△Tech(テック)と呼ばれる、かつてなかった、Disruption(破壊的イノベーション)を連想させる先進テクノロジーが幅を利かせるようになってきた。必然的な結果として、CESは「家電見本市」ではなく「軍事以外、先進的なテクノロジーなら何でもアリ」という状況になっている。

 CES 2022に関して言えば、注目の新領域として「スペーステック」(宇宙技術)と「フードテック」(食料技術)がまず挙げられる。

 まずは「スペーステック」について。

 スペースX社(テスラの創始者イーロン・マスクが設立)やブルーオリジン社(Amazonの創始者ジェフ・ベゾスが設立)の台頭を見れば大方の予想がつくように、従来NASAが担っていた宇宙探査や国際宇宙ステーション(ISS)への物資輸送の国家的プロジェクトが民間企業にアウトソースされることによって、大きな事業機会が生まれつつある。

 地元ネバダ州に本拠を置く、航空宇宙産業の民間企業・シエラネバダコーポレーション(SNC、本社ネバダ州スパークス)も「スペーステック」領域に社運を賭けている。CES 2022では、子会社・シエラスペースが国際宇宙ステーションに物資を運ぶ予定の「ドリームチェイサー・スペースプレーン」を会場で展示する予定だ。

「ドリームチェイサー・スペースプレーン」は全長9メートル、全幅7メートルでスペーシャトルの3分の1ほどの大きさの機体である。軌道上の滞在可能時間は210日以上、15回以上の再利用が可能な耐久性を持つと伝えられる。様々な紆余曲折があったものの、2016年1月にライバルのスペースX社やオービタルATK社とともにNASAへの採用が決定し、2022年には実際に運用が開始され、国際宇宙ステーションへの物資輸送のミッションを担う予定だ。

「ドリームチェイサー・スペースプレーン」を紹介するシエラネバダコーポレーション(SNC)のウェブサイト動画より

 次に「フードテック」(食料技術)について。

 2年前のCES 2020ではフードテックのスタートアップ、インポシブルフーズの初出展が脚光を浴びた。メイン会場であるラスベガス・コンベンション・センター前の駐車場に設営された屋外ブースで、新開発されたばかりの豚肉味ハンバーガーの試食イベントを実施、多くの来場者を引きつけた。

 インポシブルフーズは2011年にスタンフォード大学の生化学名誉教授だったパトリック・ブラウン(現CEO)によって設立された。牧畜を世界最悪の環境問題として捉え、肉の代替として植物由来の人工肉を開発したという経緯がある。

 フードテックへの関心の高まりの背景には、健康志向の定着やビーガンの増加だけでなく、食肉生産に伴う温室効果ガス放出や大量の穀物や水の消費などへの強い懸念が背景として根強くあることに注意が必要だ。

 2015年には同社は活動に賛同するグーグル・ベンチャーズやビル・ゲイツなどから合計1億8000万ドルの資金調達に成功。現在ではスーパーで人工肉バーガー、ソーセージを販売するほか、バーガーキングやディズニーとパートナーシップ契約を結び、インポッシブルバーガーが販売されている店舗は全米で2万店舗以上とされている(ちなみに同社は株式上場に向けた準備を進めていると噂されているが、企業価値は100億ドル前後と算定される見通しという)。

 CES 2022ではインポシブルフーズだけでなく、フードテックと親和性の高い「アグリテック」(農業技術)にも要注目だ。都会の超高層ビルや輸送用コンテナ、使われなくなった倉庫などで高さを利用して垂直的に農作物を生産する技術は「垂直農法」(Vertical Farming)と呼ばれる。従来の農業のように広い土地が要らず、光や水も効率的に活用できるので、大都市のど真ん中でも食物を生産できるという強みがある。実際に商用の都市型垂直農場としてはアラブ首長国連邦のドバイやフランスのパリで導入事例がある。

 CES 2022ではスタートアップのグロブ・テクノロジーズ(Grov Technologies)、農機具メーカーのジョンディア(JohnDeere)がアグリテックで出展を予定している。

健康志向の高まりや地球温暖化対策などの追い風でフードテックは注目のカテゴリーだ。CES 2020では話題のインポシブルフーズが出展し、豚肉バーガーの試食イベントを行った(筆者撮影)

急拡大する「ビークルテック」、祭典の華になるか「インディ・オートノマス・チャレンジ」

 CTAが5月下旬に発表したプレスリリースによると、CES 2022の「ビークルテック」領域にはアウディ、ダイムラーAG、ゼネラルモーターズを筆頭に175社を超える企業が参加をコミットしたという。175社という参加企業数はCES 2020に比べても12%増という(12月の段階での集計ではもっと増えているに違いない)。

 そして、大方の予想通り、ビークルテックのメイン展示会場は従来のラスベガス・コンベンション・センターの北ホールから道路を隔てた西側の広大な空き地に建設が進んでいた西ホールに移動することになる。2017年に半導体(GPU)メーカー、エヌビディアのジェンスン・ファンCEOが業界の垣根を超え、自前の自動運転SoCで自動運転の領域に華々しく殴り込みをかけて以来、トヨタの豊田章男社長による「モビリティ・カンパニー」への『なりわい革新宣言』、「ウーブン・シティ(Woven City)」構想などモービルテックはCESという先進テクノロジーの祭典を牽引してきたイメージが筆者には強い。

 ビークルテックの中でも特に自動運転の領域では、「インディ・オートノマス・チャレンジ(Indy Autonomous Challenge、以下IAC)」の展示と結果発表がテックの祭典に彩りを加えるだろう。

 IACは世界11カ国から約30の大学チームが参加して、今月10月23日にインディアナポリス・モーター・スピードウェイ(インディ500が行われる。以下IMS)で開催される、本物のレーシングカーを改造して超高速での自動運転技術を競うレースイベントだ。CES 2021で、主催団体であるIMSとESN(Energy Systems Network)によって開催の概要がアナウンスされ、最近になってシスコのスポンサードが発表された。

 IACは予選こそ参加チームの単独走行によるタイムトライヤルで順位が決まるが、決勝は「Head to Head」、つまりライバルとの混走による直接対決となる。レギュレーションではIMSのコース20周(50マイル)を25分で走り切ることが求められ、これは平均速度で換算すると時速120マイル(約時速192キロメートル)以上になる。オーバル(楕円形)の高速コールゆえ、最高速度は時速200マイル(時速約320キロメートル)にも達する、自動運転としては異例なまでのハイスピードレースが予想される。レースの結果はもちろんのこと、各チームが自動運転レーシングカーの開発のために試行錯誤を繰り返すプロセスは、ドキュメンタリーとしても興味深いものになるはずだ。

(参考)「インディ・オートノマス・チャレンジ(Indy Autonomous Challenge)」のウェブサイト

IMSのコースをテスト走行するダラーラ製「IL-15」ベースの自動運転車(2021年8月12日。IACのウェブサイト動画より)。「IL-15」はインディカーレースの下位カテゴリー「インディライツ」で使用される本格的なレーシングカーだ。

 ここ1~2年でテクノロジーとしての自動運転には何が課題であるかははっきりしてきており、議論の中心はむしろ実際の運用面をどうするか(どうやって商売としてマネタイズするか)に移りつつある。

 CES 2022では全体的な流れとしてADAS(先進運転支援システム)のような純粋な自動運転テクノロジーよりも、EUやカリフォルニア州など米国の一部の州での急速なEVシフトを背景に、内燃機関に変わる電動化技術がフィーチャーされる比重が高まると推察される。基調講演でのゼネラルモーターズのメアリー・バーラの2年連続の登壇は、モビリティのEV(電動)化を強く後押しするものになるはずだ。

注目度が上がる「ヘルステック」と「NFT」の会議プログラム

 ヘルステックは、コロナ禍のなかで行われた昨年のCES 2021で注目を浴びた領域の1つだったように思う。ステイホームで定期的な通院が困難になった結果、心臓病、糖尿病など基礎疾患を抱えた患者に日常の健康管理の意識を高めてもらうとともに、医療機関の側でもリモート環境での診療ができる体制を整備する必要性が出てきたからだ。

 昨年、カンファレンスに登場したオムロンヘルスケア(米国法人)は心臓病患者の遠隔患者サポート「Vital Sight」をプレゼンした。患者のバイタルデータを病院側がリアルタイムで把握できることで、患者に適宜、適切なアドバイスを送ることが可能になるという医療サービスである。CES 2022でも同社はブース出展もしくはカンファレンスで存在感をアピールするであろう。

 繰り返しになるが、CES 2022の基調講演でプレゼンされる見通しのアボットの「FreeStyle リブレLink」はスマホのアプリと上腕部に貼ったセンサーの組み合わせで糖尿病患者の血糖変動を可視化するもので、患者に対して生活習慣の改善を意識づける助けとなるだろう(同サービスのアップデート版や類似サービスが発表される可能性もある)。

 また、ダイエットサービスの企業からウェルネス企業へ「なりわい」転換を行なったWW(以前のWeight Watchers)も顧客のバイタルデータや食事や睡眠など生活に関するデータを収集、解析することで、顧客に対して改善提案を中心としたアドバイスを提供するサービスを紹介することが予想される。

 その他、CES 2022ではカンファレンス中心の展開になると予想されるカテゴリーで、新規性の高い領域のプログラムとして注目されるのが「NFT」(Non-Fungible Token)と呼ばれる非代替性トークンのテクノロジーだ。

 ブロックチェーンのテクノロジーを使ってビジネスに活用領域を広げているという点では、いわゆる仮想通貨(暗号資産)に代表される「FT」(Fungible Token)と同様である。しかし、FTが代替可能トークン(同じトークンが存在する)で分割可能な性格を持ち、通貨やポイントなど数量的なものに活用領域があるのに対して、NFTは同じトークンが存在せず、分割も不可能で、活用領域もデジタルアートやチケット、ゲームアイテムなど1点ものに活用領域があると考えられている。

 アートやエンターテインメントのビジネスに大きなインパクトを与える可能性が高い点で(例:1点が数億円のデジタル絵画が取引される市場ができる)、将来のビジネス拡大を見据えた、ホットなカンファレンスになる可能性がある。

ハードルが高い?CES 2022リアル参加に向けたヘルスプロトコル

 ところで米国のバイデン政権の取り決めによって、当面、日本から米国への入国には、以下の2点の証明が必須になる、とアナウンスされている。

・PCR検査の陰性の証明書(米国へのフライトに登場する3日前までに受ける必要あり)

・ワクチン接種の証明書(米国人向けには無料モバイルアプリ「CLEAR」が提供され、予防接種証明が管理される見込み。外国人には「CLEAR」に類似したサードパーティアプリの使用によって接種を証明。詳細は10月中に発表される見込み)

 筆者はメディア(プレス)資格でのCES 2022の参加登録を9月下旬には済ませたが、主催者のCTAからの案内では、ID(入場証)引き換えには発行カウンターでの上記2点の提示が必要、とある。

 例年、CESツアーの募集を行っているJTBなど大手旅行会社もツアーパッケージを準備中であると聞く。旅行会社のツアーを利用させてもらえば、上記2点の証明書の取得や現地での予期せぬトラブル対応などコロナ禍での渡米のハードルは下がる。

 毎年、年初にCESで充電を繰り返す筆者にとって、リアルな開催がなかった2021年は何となく「熱量の低い」まま推移してきてしまったように思う。デジタル開催によって「CESが身近になって良かったではないか」と一旦は『JDIR』の記事で強がってはみた。しかし、コンサルタントとして、また大学院の教員として1年間を活気に溢れて乗り切るためのエネルギー源を吸収するには、(豊富な情報量とはいえ)デジタルの2次情報ではやはり不十分だったのである。

 イノベーションはテクノロジーから生まれるのではなく、アイデアとアイデアの積み重ねやぶつかり合いから生まれていく。そのために「熱量」を伴った会社と会社、ヒトとヒトとの偶然な出会いは重要な意味を持つ。こういったイノベーションを実現するプラットフォームとして、CESのような国際的なテックイベントは極めて重要な役割を果たしているのだ。皮肉なことに、本当に大切なものは失ってみて初めて気がつくものである。

 CES 2022で筆者が吸収した新鮮な「熱量」については、年明け、1月の記事で改めて紹介させていただきたいと思う。