IACは予選こそ参加チームの単独走行によるタイムトライヤルで順位が決まるが、決勝は「Head to Head」、つまりライバルとの混走による直接対決となる。レギュレーションではIMSのコース20周(50マイル)を25分で走り切ることが求められ、これは平均速度で換算すると時速120マイル(約時速192キロメートル)以上になる。オーバル(楕円形)の高速コールゆえ、最高速度は時速200マイル(時速約320キロメートル)にも達する、自動運転としては異例なまでのハイスピードレースが予想される。レースの結果はもちろんのこと、各チームが自動運転レーシングカーの開発のために試行錯誤を繰り返すプロセスは、ドキュメンタリーとしても興味深いものになるはずだ。

(参考)「インディ・オートノマス・チャレンジ(Indy Autonomous Challenge)」のウェブサイト

IMSのコースをテスト走行するダラーラ製「IL-15」ベースの自動運転車(2021年8月12日。IACのウェブサイト動画より)。「IL-15」はインディカーレースの下位カテゴリー「インディライツ」で使用される本格的なレーシングカーだ。

 ここ1~2年でテクノロジーとしての自動運転には何が課題であるかははっきりしてきており、議論の中心はむしろ実際の運用面をどうするか(どうやって商売としてマネタイズするか)に移りつつある。

 CES 2022では全体的な流れとしてADAS(先進運転支援システム)のような純粋な自動運転テクノロジーよりも、EUやカリフォルニア州など米国の一部の州での急速なEVシフトを背景に、内燃機関に変わる電動化技術がフィーチャーされる比重が高まると推察される。基調講演でのゼネラルモーターズのメアリー・バーラの2年連続の登壇は、モビリティのEV(電動)化を強く後押しするものになるはずだ。

注目度が上がる「ヘルステック」と「NFT」の会議プログラム

 ヘルステックは、コロナ禍のなかで行われた昨年のCES 2021で注目を浴びた領域の1つだったように思う。ステイホームで定期的な通院が困難になった結果、心臓病、糖尿病など基礎疾患を抱えた患者に日常の健康管理の意識を高めてもらうとともに、医療機関の側でもリモート環境での診療ができる体制を整備する必要性が出てきたからだ。

 昨年、カンファレンスに登場したオムロンヘルスケア(米国法人)は心臓病患者の遠隔患者サポート「Vital Sight」をプレゼンした。患者のバイタルデータを病院側がリアルタイムで把握できることで、患者に適宜、適切なアドバイスを送ることが可能になるという医療サービスである。CES 2022でも同社はブース出展もしくはカンファレンスで存在感をアピールするであろう。

 繰り返しになるが、CES 2022の基調講演でプレゼンされる見通しのアボットの「FreeStyle リブレLink」はスマホのアプリと上腕部に貼ったセンサーの組み合わせで糖尿病患者の血糖変動を可視化するもので、患者に対して生活習慣の改善を意識づける助けとなるだろう(同サービスのアップデート版や類似サービスが発表される可能性もある)。

 また、ダイエットサービスの企業からウェルネス企業へ「なりわい」転換を行なったWW(以前のWeight Watchers)も顧客のバイタルデータや食事や睡眠など生活に関するデータを収集、解析することで、顧客に対して改善提案を中心としたアドバイスを提供するサービスを紹介することが予想される。

 その他、CES 2022ではカンファレンス中心の展開になると予想されるカテゴリーで、新規性の高い領域のプログラムとして注目されるのが「NFT」(Non-Fungible Token)と呼ばれる非代替性トークンのテクノロジーだ。

 ブロックチェーンのテクノロジーを使ってビジネスに活用領域を広げているという点では、いわゆる仮想通貨(暗号資産)に代表される「FT」(Fungible Token)と同様である。しかし、FTが代替可能トークン(同じトークンが存在する)で分割可能な性格を持ち、通貨やポイントなど数量的なものに活用領域があるのに対して、NFTは同じトークンが存在せず、分割も不可能で、活用領域もデジタルアートやチケット、ゲームアイテムなど1点ものに活用領域があると考えられている。

 アートやエンターテインメントのビジネスに大きなインパクトを与える可能性が高い点で(例:1点が数億円のデジタル絵画が取引される市場ができる)、将来のビジネス拡大を見据えた、ホットなカンファレンスになる可能性がある。

ハードルが高い?CES 2022リアル参加に向けたヘルスプロトコル

 ところで米国のバイデン政権の取り決めによって、当面、日本から米国への入国には、以下の2点の証明が必須になる、とアナウンスされている。

・PCR検査の陰性の証明書(米国へのフライトに登場する3日前までに受ける必要あり)

・ワクチン接種の証明書(米国人向けには無料モバイルアプリ「CLEAR」が提供され、予防接種証明が管理される見込み。外国人には「CLEAR」に類似したサードパーティアプリの使用によって接種を証明。詳細は10月中に発表される見込み)

 筆者はメディア(プレス)資格でのCES 2022の参加登録を9月下旬には済ませたが、主催者のCTAからの案内では、ID(入場証)引き換えには発行カウンターでの上記2点の提示が必要、とある。

 例年、CESツアーの募集を行っているJTBなど大手旅行会社もツアーパッケージを準備中であると聞く。旅行会社のツアーを利用させてもらえば、上記2点の証明書の取得や現地での予期せぬトラブル対応などコロナ禍での渡米のハードルは下がる。

 毎年、年初にCESで充電を繰り返す筆者にとって、リアルな開催がなかった2021年は何となく「熱量の低い」まま推移してきてしまったように思う。デジタル開催によって「CESが身近になって良かったではないか」と一旦は『JDIR』の記事で強がってはみた。しかし、コンサルタントとして、また大学院の教員として1年間を活気に溢れて乗り切るためのエネルギー源を吸収するには、(豊富な情報量とはいえ)デジタルの2次情報ではやはり不十分だったのである。

 イノベーションはテクノロジーから生まれるのではなく、アイデアとアイデアの積み重ねやぶつかり合いから生まれていく。そのために「熱量」を伴った会社と会社、ヒトとヒトとの偶然な出会いは重要な意味を持つ。こういったイノベーションを実現するプラットフォームとして、CESのような国際的なテックイベントは極めて重要な役割を果たしているのだ。皮肉なことに、本当に大切なものは失ってみて初めて気がつくものである。

 CES 2022で筆者が吸収した新鮮な「熱量」については、年明け、1月の記事で改めて紹介させていただきたいと思う。