CESの主催者CTAのゲイリー・シャピロ社長兼最高責任者(CEO)はプロデューサーとしての手腕も高い。CES 2017のアンダーアーマーのケビン・プランクCEO、CES 2020のデルタ航空の最高経営責任者(CEO)のエド・バスティアンのように、これまでCESの大舞台とは縁遠かった「テック企業以外の」著名な経営者を口説き落として会期初日の朝の基調講演に登壇させてきた。「業界初」の触れ込みで戦略的に話題作りを行うというのが、ゲイリー・シャピロ流の手口だ。
その文脈から推測すると、CES 2022は“ヘルスケア業界初”の登壇となるアボットのロバート・フォードCEOがその大役を務める可能性が極めて高いと予想する。
アボットは日本ではそれほど知名度は高くないが、1880年にシカゴの薬局経営者 ウォレス・C・アボット博士によって創業された伝統ある大企業である。世界160カ国でビジネスを展開し、合計10万9000人もの従業員を抱えている。
またアボットは特に糖尿病ケアの領域で評価と業績を残している。「ヘルステック」への取り組みにも熱心で、糖尿病患者が上腕部に貼ったセンサー(最長14日間使用可能)をスマホのアプリを使って1秒スキャンするだけで血糖変動を把握できる「FreeStyle リブレLink」と呼ばれるサービスを日本でも今年2月から提供開始している。「FreeStyle リブレLink」のように最先端のデジタル技術を活用したヘルスケアの未来に関するアボットのビジョンを示すことがロバート・フォード CEOの基調講演の主題となると推察される。
(参考)「アボット、スマートフォンのアプリをかざすことで日常の糖尿病管理に用いることのできる日本初めてのアプリ『FreeStyle リブレLink』の提供を開始」(アボットジャパンのプレスリリース)
(編集部注)その後、CESの主催団体であるCTAからプレスリリースがあり、11月15日現在で基調講演のスケジュールは以下のようになっている。
・1月4日 18:30~19:30 サムスン
・1月5日 9:00~10:00 ゼネラルモーターズ(GM)
・1月5日 14:00~15:00 T-Mobile
・1月6日 9:00~10:00 アボット
「スペーステック」「フードテック」を新カテゴリーとして導入
長い期間、CESに通い続けて「定点観測」を続けていると、ひとつ大きな気づきがある。
2010年代の前半までは、大画面テレビの時代からスマートフォンの時代へと主にデジタル機器がCESの主役の座を占めていた。しかし、2010年代の半ば以降、データの時代に突入し、AIやIoTが基幹技術として定着すると、自動運転に加えて、スマート◯◯や△△Tech(テック)と呼ばれる、かつてなかった、Disruption(破壊的イノベーション)を連想させる先進テクノロジーが幅を利かせるようになってきた。必然的な結果として、CESは「家電見本市」ではなく「軍事以外、先進的なテクノロジーなら何でもアリ」という状況になっている。
CES 2022に関して言えば、注目の新領域として「スペーステック」(宇宙技術)と「フードテック」(食料技術)がまず挙げられる。
まずは「スペーステック」について。
スペースX社(テスラの創始者イーロン・マスクが設立)やブルーオリジン社(Amazonの創始者ジェフ・ベゾスが設立)の台頭を見れば大方の予想がつくように、従来NASAが担っていた宇宙探査や国際宇宙ステーション(ISS)への物資輸送の国家的プロジェクトが民間企業にアウトソースされることによって、大きな事業機会が生まれつつある。
地元ネバダ州に本拠を置く、航空宇宙産業の民間企業・シエラネバダコーポレーション(SNC、本社ネバダ州スパークス)も「スペーステック」領域に社運を賭けている。CES 2022では、子会社・シエラスペースが国際宇宙ステーションに物資を運ぶ予定の「ドリームチェイサー・スペースプレーン」を会場で展示する予定だ。
「ドリームチェイサー・スペースプレーン」は全長9メートル、全幅7メートルでスペーシャトルの3分の1ほどの大きさの機体である。軌道上の滞在可能時間は210日以上、15回以上の再利用が可能な耐久性を持つと伝えられる。様々な紆余曲折があったものの、2016年1月にライバルのスペースX社やオービタルATK社とともにNASAへの採用が決定し、2022年には実際に運用が開始され、国際宇宙ステーションへの物資輸送のミッションを担う予定だ。