境町の北の玄関口「高速バスターミナル」へ向かう新路線の追加により、東京駅行きの高速バスへの接続が可能になった。自動運転バスのデザイン画は境町出身の現代美術アーティストで虎ノ門ヒルズの壁画でも有名な内海聖史(うつみ・さとし)氏によるもの(著者撮影)

(朝岡 崇史:ディライトデザイン代表取締役、法政大学大学院 客員教授)

 茨城県の南西部・利根川沿いに位置し、江戸時代には「河岸のまち」として栄えた境町(さかいまち)。農業以外には大きな産業がなく、住民の高齢化率も高まる中、理系出身のバックグランドを持つ橋本正裕町長(45歳)の英断で自動運転路線バスの導入(運賃無料・予約不要)がスタートし、「町内の移動の不自由をなくす」という形で社会課題解決につなげていることは2021年4月の記事でレポートした通りである。

(参考)「茨城『河岸のまち』で自動運転路線バスに乗ってみた」(「JDIR」2021年4月)

 2020年11月26日のサービス開始以降、境町では1路線・平日1日10便の運行を3台の自動運転EV(フランスのナビヤ社製アルマ)を使って行ってきたが、今年(2021年)8月中旬からはいよいよ運行ルートを拡充するという。

 境町からの委託で自動運転路線バスの運営を担っているのはソフトバンク系列の先進モビリティ企業、BOLDLY株式会社(以下「ボードリー」)である。今回もボードリーの代表取締役兼CEOである佐治友基氏に自動運転バスで新路線(道の駅さかい~高速バスターミナル)を隅々まで案内していただきながら、運行ルートの拡充とその背後で進められている境町の経済活性化の取り組みについて取材を行った。

新路線の追加で町内モビリティの棲み分けが完成

 路線の拡充については、現在運行している1路線(シンパシーホール~河岸の駅さかい)のルートの終点が「道の駅さかい」まで延長されるとともに、別の新たな1路線(道の駅さかい~高速バスターミナル)がまるまる追加になるというものだ。

 既存の路線が境町のメインストリートを中心に走り、主に病院、郵便局、役場、銀行といった境町住民にとっての「公共の生活インフラ拠点」をカバーしているのに対し、新たな路線は「道の駅さかい」や「公共の生活インフラ拠点」に加えて街の北東部に位置する生活エリアに踏み込んで「葵カフェ ハワイ境店」のような商業拠点や「ニコニコパーク」(世界レベルのBMXパーク「境町アーバンスポーツパーク」が隣接)といった町営スポーツ・アミューズメント拠点を巡るのが特徴である。

境町の自動運転路線バスの路線図と時刻表(境町作成のパンフレットより)
拡大画像表示