「賑わい」創出の役割も期待される自動運転路線バス
実は今回、拡張された新路線に期待されているもうひとつの役割がある。自動運転路線バス導入の直接のきっかけになった境町の社会課題の解決(移動の不自由をなくす)ということは大前提にあるとしても、運賃無料のサービスを増やしたというだけでは町の財政的な負担が単純に膨らむだけになってしまう。
今一度、新路線のルートをおさらいして見よう。すると境町の新たな狙いが透けて見えて来る。ボードリーの佐治社長の言葉を借りれば、それは「外から来た人(観光客)をまちの中心部へ運ぶことで、境町が整備した拠点でお金を使ってもらうこと」である、という。
境町の外から来た人(観光客)をまちの中心部へ呼び込むためには、北の玄関口である「高速バスターミナル」と南側の玄関口の「道の駅さかい」とが戦略的に重要なスポットになることは言うまでもないが、狭く複雑な路地が連続する町内を効率的に巡るためには、町の交通事情にマッチした専用のモビリティ・サービスの存在が大きな意味を持ってくる。
外需の力も借りて消費を拡大することでGDP(Gross Domestic Product。町内総生産:ここでのDomesticは「町内」の意味)を上げ、まちの「賑わい」を生み出す。そう、この境町の成長戦略を下支えするのが、自動運転路線バスに期待される新たなミッションなのだ。
ここで境町の成長戦略についてもう少し深掘りしてみよう。興味深いデータがある。下のグラフは境町の一般会計決算規模の推移を経年的に表したものある。読者の皆さんに注目していただきたいのは、橋本正裕町長が就任した平成26年度以降の、町の歳入・歳出決算額の大幅な伸びだ。
境町の歳入増の財源はどこから来たのだろうか? タネ明かしをすると、その出どころは「ふるさと納税」と国からの「新規補助金などの獲得」である。
「ふるさと納税」については、橋本正裕町長が就任する直前の平成25年度にはわずか寄付件数7件・寄付金額6万5000円に過ぎなかったが、令和2年度には16万3363件・29億2317万円にまで大幅に拡大している。上のグラフで平成30年に歳入・歳出が200億円を超えたのは「ふるさと納税」が16万9137件・60億4815万円に達したからである(この年の「ふるさと納税」の実績はかつての境町の年間予算の総額に匹敵する)。
国からの「新規補助金などの獲得」も同様で、橋本正裕町長が就任した平成26年には約5000万円に過ぎなかったものの年々増加し、令和2年度には約14億円規模にまで拡大している。ちなみに平成26年度から令和2年度までの補助金等の獲得総額は約51億円に上っている。
成長戦略の背景にある共創型の「境町モデル」
潤沢になった財源を活用して境町が仕掛けた注目すべき公共事業は「商業と文化の拠点づくり」と「アミューズメントの拠点づくり」である。