アマゾンによるアイロボットの買収は、双方にとってメリットのある、Win-Win型のビジネスモデル構築の足掛かりとなるものと考えるのが自然である。

プライバシー擁護の活動家や米連邦取引委員会の動向

 アマゾンによる「アンビエント・インテリジェンス」の実現は、あえて穿った見方をするならば、先ほどご紹介した性悪説、家具や調度の種類やデザインや状態・家族構成や家族の生活習慣/パターン、家族の会話の内容もアマゾンに丸ごと把握され、マーケティング活用されることが現実になることを示唆する。

 例えば、著者の家のリビングのカーテンは経年劣化で多少くたびれてきていると感じているが、今後はAmazon.comから新しいカーテンをお勧めされたりすることが十分に予測されるだろう。

 当然のことながら、米国内で「Fight for the Future」に代表されるデジタル社会におけるプライバシー保護の団体・活動家たちは今回の買収に対して反対を声高に表明している。

 また、今回の買収に関しては、規制当局である米連邦取引委員会(FTC)が待ったかける可能性も残されている。

 アマゾンはホームマップ機能を持った自律走行のロボット掃除機は保有していないので、今回の買収は法的な観点からはセーフに見える。しかし、FTCの委員長、リナ・カーンは33歳の気鋭の法学者だ。巨大テック企業による買収に極めて批判的な立場をとってきた人物であり、主にアマゾンを対象とした反トラスト法の改正について論じた『イエール・ロー・ジャーナル』の論文「アマゾンの反トラスト・パラドックス」をきっかけに脚光を浴びたという異色の経歴の持ち主だ。

 とはいえ、仮に認可が下りなかったとしても局面は大して変わらないだろう。アマゾンによるアイロボットの買収は「アンビエント・インテリジェンス」完成の「大詰めの最後の一手」に他ならないからだ。アマゾンはどこからか技術的なリソースを調達して新アストロに代わる自律走行の端末とサービスを導入すると推察される。

 巨大テック企業アマゾンによるアイロボット買収劇はそれ自体、ニュースとして興味深い。だが光があれば必ず闇の部分があるように、暗くてよくわからない部分にマーケティングのイノベーションの手がかりや逆に潜在的なリスクが隠されていることを知る格好の事例ではないか、と思えてならない。