アイロボット「ルンバ」の最新モデル「j7+」にはAIカメラが搭載されており、物体を認識し、コードやペットの排泄物など障害物を避けながら賢く掃除をする。データはクラウドに貯められ、役立つデータは世界中のj7+と共有される(出所:アイロボットのウェブサイト)

(朝岡 崇史:ディライトデザイン代表取締役、法政大学大学院客員教授)

 8月5日、アマゾン(Amazon)はロボット掃除機「ルンバ」で知られるアイロボット(iRobot)を約17億ドル(約2200億円)で買収すると発表した。日本経済新聞(8月6日付)の報道によれば、ルンバを生み出した現CEOのコリン・アングルは買収取引の完了後も引き続きCEOに留任すると見られる。

 今回は買収劇から透けて見えるアイロボットとアマゾンの両企業のビジネス上の思惑に加え、買収に反対する米国内の勢力の存在についても追いかけてみたい。

中国勢に包囲されるアイロボット、モノ売りのビジネスモデルは限界

 2002年のルンバ発売以来、ロボット掃除機市場を牽引してきたアイロボット。強力な吸引力と豊富な商品ラインナップ(価格帯約3万~19万円)で世界市場でのシェアは依然NO.1をキープしているものの、最近ではその勢いにはっきりと陰りが見え始めている。

 その最大の原因はエコバックス、ロボテック、アンカー、キーボルなど中国メーカーの台頭である。ロボット掃除機の領域でも中国メーカー全体の実力が上がり、「安かろう、悪かろう」というイメージは過去のものになっているのだ。

 エコバックス(世界シェア2位)、ロボテックは価格帯もアイロボットとほぼ同様で、ミドル・ハイエンドの価格帯でガチンコ勝負をしている。高精度センサーに優れ、障害物対応に定評があるほか、ゴミの吸引と水拭きの二刀流がこなせる上位機種も存在する。

 また約2万~6万円のローエンドの価格帯に位置するアンカー、キーボルはルンバの低価格機並みの吸引力を備え、しかもルンバの唯一の弱点ともいえる静音性が高評価だ。

 つまり、ルンバのアイロボットの機能的優位性は縮小し、かつてのようにロボット掃除機市場で「ワン&オンリーの存在」ではなくなっているのだ。

 もちろん、アイロボットも中国勢ライバルの侵攻に手をこまねいているわけではない。3万円台で買える高コスパの格安モデルの投入、サブスクプランやレンタルプランの提供、コスト構造の見直しなど、売上高の8割以上をミドル・ハイエンド機種の販売に依存する事業モデルの再構築に取り組んでいる。