しかし、8月5日に発表された2022年4~6月期の決算では、純利益が約4340万ドル(約56億円)の赤字(前年同期は270万ドルの赤字)、売上高も2億5530万ドル(約290億円)で前年同期の30%減と財務データにははっきりと苦境がにじむ。
また株価も2021年をピークに下がり続けており、先月7月15日には1株あたり36ドル91セントの底値を記録した。
卓越したブランド力を頼りにロボット掃除機という「モノ」を売り切るビジネスモデルは、中国勢の台頭により同質化と成熟化が進んだことで急速に限界に来ている(投資家も同様の評価をしている)、と言えるだろう。
アマゾンが喉から手が出るほど欲しい「世界中の家の間取りデータ」
そして、今回、アイロボットの苦境に手を差し伸べたのがアマゾンなのである。実はアマゾンとアイロボットには長くて深いつながりがある。2017年秋のアマゾンのAIスピーカー「アマゾンエコー」発売以来、ルンバの上位機種はアマゾンエコーの音声アシスタント機能「アレクサ」の「スキル」に対応しており、ユーザーはアレクサとの音声対話によってルンバを意のままに操ることができるという蜜月関係にあった。
(参考)「本当は恐ろしい?ルンバとアレクサのマリアージュ」(『IoT Today』2018.8.9)
当時からアマゾンが喉から手が出るほど欲しかったもの。それは世界中のルンバがせっせと収集した「家の間取りデータ」(ホームマップ)に違いない。
ルンバの上位機種は筐体の中央にあるカメラと複数のレーザー・赤外線センサーによって家の間取りデータを掃除するごとに作成、サーバーに蓄積している。ルンバが家の間取りや障害物の位置を学習することで、効率的なロボット掃除ができるようになる。写真のルンバ980は筆者の家にやってきて約4年経つが、最初の頃と比べるとルンバがテーブルの足や柱に接触する回数は劇的に少なくなっていると感じる。
アイロボットのコリン・アングルCEOはこれまでも折に触れて「ホームマップはアイロボットにとって極めて重要な技術で、資産でもある」「利用者の同意が得られれば、ルンバが取得した”情報”をスマートホームのエコシステムに提供できる」と発言している。
ルンバが取得した“情報”については、性善説的に解釈すれば「掃除をした回数と1回あたりの所要時間や宅内の2次元のホームマップ」となる。しかし、性悪説的にあえて深読みすると「家具や調度の種類やデザインや状態・家族構成や家族の生活習慣/パターン、家族の会話の内容(アレクサ経由)」とも考えられる。